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 2007年06月 

ships #02 

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 黒曜の瞳が忙しなくディスプレイの上を往復する。
 頬に影を落とす長い睫毛は、手元の書類と画面を行き来するたび前髪と触れ合い、伸び始めたそれを意識させた。綺麗に整った容姿の中、目だけが不安気な色を映す。かつて灼け付くような情熱を宿したことなど幻だったと言うように、つとパソコン画面から逃げた視線は窓の外を力なく彷徨った。
 抜けるような青空。
 あの頃、一番見ていなかったもの。
 それはほんの数年前のことなののだけれど、当時の自分を思い出すたび代わる代わる現れては消えてゆく過去の恋人達の横顔を追い掛け、安里の思考は深い海に吸い込まてゆく。
 思い出はいつも短かった。
 好きになるたび入れ込み過ぎてしまう自分の愛情は、相手には重いものなのだと教えてくれたのは何人目だっただろうか。それでも愛したくて、愛されたくて、与えるたび捨てられてきた。
 土台無理な話なのだ、と今にして思う。
 未だクローズドの性を背負っている自分にとって、同じベクトルの相手を見付けることがどれだけ高いハードルか分からなかった。パートナーを求めるのは、ゲイとして生まれながらヘテロのフリをして社会生活を営んでいるギャップに苦しみ、周囲が洩らす心ない言葉に傷付いた心を癒したかったのかも知れない。
 ありのままに生きられたらどんなにいいだろうという切望。
 もういっそゲイであることを忘れて生きたいと思う葛藤。
 終わりのない逡巡に安里は疲れていた。心に鍵を掛け己を守るしかなかった。崖に追い詰められた手負いの獣のような、それはあまりに悲しい決断。
 下唇を噛み締めたその時、まるで見計らうかのように、傍らの電話が着信を告げた。
「はい、RSC企画の安里です」
 習慣と化した決まり文句で受話器を取り上げ、今し方の残像を追い払う。思考を現実世界に引き戻しながら、安里は次第に仕事に没頭していった。

ships#03 に続く