ships #06
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水瀬の仕事ぶりは噂通りだった。
プロマネを務めるだけあって知識や経験の量もさることながら、指示の的確さ、判断の速さにおいてはメンバー全員を唸らせた。課長補佐とはいえ年若い彼の力がどれほどのものかと訝っていた面々も舌を巻くしかなかった。幹部候補生と名高い理由はすぐ知れる。それは安里達にも少なからぬ影響を与えていた。
彼がプロジェクトを進行させる上で、メンバーに求めるものは常にハイエンドだった。データの精度であり、資料の緻密さであり、戦術の巧みさであり、そういったすべてにおいてプロフェッショナルであることを要求されるシビアな現実が、関わる者達の目を変えてゆく。静かに、けれど怒濤の勢いで進化してゆく計画の密度は、四六時中頭の中を支配し続け、一種の陶酔状態さえ創り出していた。
──仕事に没頭することがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。
手元の資料から目を上げふと、時計の針が最後に見た時からもう数時間分も動いていることを知り、安里は口端に笑みを浮かべる。
これまでも好きなことに熱中するたび時間を忘れる感覚を心地いいと思っていたが、各方面より選出されたメンバーで大きなことをやり遂げようとする、この爆発的なエネルギーはどうだ。自分ひとりだけでは経験出来ない、かつてのようにひとつの部署に留まっていたなら決して味わうことの出来ないもの。任されることは即ち責任の重圧に直結するのだけれど、ひとつひとつ積み上げるからこそ身に付く自信と喜びは計り知れなかった。
無論、応えようとすればそれだけ負担は増し、連日の深夜残業が余儀なくされる。それを辛いとは思わなかったけれど、徐々に堪り始めている肉体疲労は如何ともし難く。ここのところ頻発する頭痛に閉口しつつ、安里は大きく腕を上げてノビをした。
「さて、と……」
タイミングよく、唸りを挙げていたプリンタが止まる。ようやく出力されたぶ厚い束は冗談のような量だったが、これを明日夕方の定例会議までに目を通そうと思えるのだから、昔の自分が見たら気が狂ったのかと思うだろう。
「ま、楽しいと思えるうちが花だしな」
時刻は23時を回り、たったひとりになったオフィスで。
疲れた身体に鞭打って安里は再び意識を沈めてゆく。
窓の淵、切り取られた月だけがこれからの行方を見守っていた。
ships#07 に続く
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