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 2007年08月 

ships #25 

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 話はやがてプロジェクトチームの解散に移った。
 使命が終われば任を解かれるのは始めから分かっていたことなのだけれど、また繰り返す日常の中に心の支えを失ってしまうようで落ち着かなかった。
「寂しくなりますね」
 グラスの足をそっと撫でながら呟く。今となっては自分の中で大きな位置付けを持っていたプロジェクトそのものだけではなく、水瀬との関わりもこれでなくなってしまうのかと思うと胸が痛んだ。けれど、それは杞憂だと告げるように傍らで司令塔が笑う。
「よければ、たまに飲まないか」
 これを同じ気持ちだったと思ってもいいだろうか。
 これを特別なものだと受け止めてもいいだろうか。
 誘いが嬉しくて笑みを返す安里に対し、水瀬はふと口元に手を当てた。
「……あぁ、だが君の時間を取ってしまっては、君の恋人に申し訳ないな……」
 それはいつかの電話の相手。やはり水瀬は誤解していたのだ。
「あれは本当にそういうのではなくて……」
「昔の彼女だろう」
「いえ、違うんです」
 事実を追い掛けようとする彼の表情はあくまで穏やかで、その心中が焦げ付きそうな痛みを伴っていることなど知る由もないまま、安里は解決の糸口を探そうと藻掻き続ける。だが、これ以上はどうやっても真実を伝えることは出来ないと判断し、思い切って打ち明けた。
「……昔の彼氏、でした」
 前を向いたまま視線を合わせることなく告げる。振り向いて目を逸らされることが恐かった。
 1秒経ち、2秒経ち……言葉のない時間がどんどんと重みを増してゆく。拒絶しているのでないと空気は伝えているけれど、それさえ受け入れ難いギリギリのラインなのかどうかも分からない。ただ冗談で流されることが、或いは聞かなかったことにされることが恐くて、内面を晒した自分を置き去りにされたくなくて、安里は唇を噛み締める。
 ふと、水瀬が息を吐いた。それは彼が何かを言おうとしているのだと分かった瞬間、安里は先に口を開いた。
「気持ち悪いですよね、ゲイとか……」
 やっぱり気にしないでください、と付け加えようと向き直った先、そこにいたのは真剣な表情の司令塔だった。
「誰かを想うのに気持ち悪いなんてない」
 真直ぐにこちらを見つめる双眸の光は痛いほど強く、瞬きすら忘れる。一瞬遅れて自分が受け入れられたことに気付いた安里は、嬉しいという感情さえ上手く整理することが出来ないまま惚けた。
「水瀬さん……」
 生まれて初めて、同性愛者以外に自分のセクシャリティを告白した。しかも、自分の好きな相手に。受け入れられるなんて思わなかった。これ以上ないほど願っていたけれど、そう上手くいくはずないと思い込んでいた。嫌われると、或いは避けられるかも知れないと怯えてすらいたのに。
「……そう言ってもらえて俺、上手く言えないですけど……たぶん、凄く、嬉しいんだと思います」
「自分のことなのに、たぶん、か?」
 苦笑する横顔がこんなにも胸を高鳴らせる。
「だって、そんな、こんな展開予想外で心の準備も何も……」
「やっぱり君は面白い男だ」
 そう言って水瀬はこちらを向き、破顔した。それは初めて見る、彼の満面の笑みだった。
「水瀬さんこそ、変わり者ですよ」
 いきなりゲイであることを告白されて、普通に受け止めてしまえるなんて。それに驚く様を見て面白い男だと表現すること自体、卓越した精神の持ち主だと知らしめる。
「俺にそんなことを言うのは君ぐらいだな」
「皆知らないんですよ。水瀬さん一見恐いから」
「恐い!?」
「あはは。その顔見せたらきっと皆びっくりしますよー」
 肩を震わす安里に納得いかないとばかり眉を寄せるのがおかしくて、苦笑を堪えることが出来ない。ひとしきり笑った後息が苦しいと胸を押さえれば、水瀬は自業自得だと拗ねて見せた。
 今日一日でたくさんの表情を見、たくさんの言葉を交わした。それが嬉しくてこんなにも自分は饒舌になるのだと知ったら、彼は何と言うだろうか。
「ねぇ水瀬さん。もう少し話してもいいですか」
「あぁ。聞かせてくれ」
 少しずつ距離を縮めながら、少しずつ心に触れてゆく。
 穏やかな夜がふたりの甘く疼く想いを見守っていた。

ships#26 に続く