guys #03
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職員室に赴いたふたりは、委員長が初日の報告として担任教師に日誌を提出し終わると、踵を返して帰路に就いた。
家から学校までは距離があるためバスを利用する律誠に対し、一日も早いレギュラー獲得に燃える和哉は片道40分を走ってこなす。無論常人がそれに付き合えるわけもなく、今日は揃ってバス停までの道を肩を並べて歩いた。
街路樹はこれからの季節に備えて黄緑の葉を茂らせ、穏やかな陽の名残を楽しんでいる。ついこの間芽吹いたと思っていたのに早いものだと目を細めた時、思い出したように幼馴染みが口を開いた。
「あのクラスの委員長かぁ……」
「……え?」
しみじみと噛み締めるような口振りが、いつもの揶揄を含めたものと明らかに違う。何か思うところがあるのかと向き直ると、和哉は長い溜息で応えた。
「…………大変だな」
聞けば、律誠のクラスにトラブルメーカーがいるのだという。その生徒と1年生の時に同じクラスだったという和哉は、彼の問題行動のおかげでホームルームが頻繁に開かれたこと、授業中も何度か喧嘩騒ぎがあったこと、教科によっては担当教諭から目を付けられ、間に立ったクラス委員が泣かされたことを語った。
「常和にもそんなヤツがいるんだな……」
「あのな律誠、どこだってそう平和じゃないんだよ」
みんながおまえみたいに真面目一直線だったら争いも起こんないんだろうけど、と付け加えられたのを、取り敢えず臑を蹴飛ばしておく。
「……で、その問題児は誰なんだ」
「あれ、まだ噂とか聞かない? 有沢だよ」
「有沢……」
呟いた名前が頭の中のデータベースを探る。始業式以来日が浅いこともあり見つけ出した情報はそう多くなかったが、僅かなデータから輪郭を修復するように律誠は記憶を繙いていった。
有沢雪之(ありさわ ゆきの)───。
トラブルメーカーの肩書きを持つ彼には、人を寄せ付けない一匹狼という表現が適している。何かと群れたがる生徒達の輪を遠巻きに窓の外を眺める横顔を何度か目にした。しかしそれとて珍しい方で、一日中机に突っ伏して寝ているか、或いは登校と同時に屋上に直行するのが関の山。なんとか更生させようとかつて何度も衝突があったらしいが、未だ授業もまともに受けようとしない生活態度に改善の成果は見られない。教師陣の指導の網など素知らぬ顔で擦り抜けてゆく魚は、今日も気儘にどこかでひとりの時間を過ごしているのだろう。平和を絵に描いた常和の中でそのルーズなスタイルはよく目立った。
「……そうは言っても、まだ話したこともないんだ」
彼のことを何も知らないから憶測でものは言えない、と続けるのを振り返った相棒は、一瞬訳が分からないという表情を浮かべ、続いて首を右に傾げてみせ、じわじわと眉根を寄せてゆき、然る後大きな溜息を吐いた。
「そうだった……おまえはそーいうヤツだよな……」
「なんだよ」
「いや、誉めてんの。これでも」
もしこれが自分だったら間違いなく気重になるだろうに、と和哉は苦笑を浮かべる。周囲の間接的な情報を鵜呑みにすることなく、しかもそれを自然体でやってのけてしまうのだから、律誠には人をまとめる立場の人間として天性の才能が備わっているのかも知れない。
「……ま、ボチボチ頑張れ」
「あぁ。そうするよ」
頷き返した頃、小さなクラクションが上がる。
定刻通り滑り込んだバスの停車音に掻き消されるまま、ふたりは次の話題へと移っていった。
guys #04 に続く
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