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 2007年09月 

guys #04 

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 新学期の慌ただしさが一段落し、本格的に授業が始まるようになると、雪之の素行はかなり注目を集めるようになっていた。生活が落ち着いてしまえば目新しいものを求めがちな人間、それもまだ高校生である彼らにとって異分子は格好の獲物と言っても過言ではない。あることないこと噂はあっと言う間に広がり、雪之をよく知らない人間でさえ第三者に作られたイメージで彼を判断するようになっていた。
 それがどうしても納得出来ない人物がひとり、移動教室前のザワ付いた教室で時計を睨んでいる。律誠である。
 今日も教室に顔を出すなりフラリとどこかに行ってしまった雪之を探しに学校中を走り回るのは、残り5分のタイムリミットはあまりに短い。どうしたものかと逡巡していた視線の先、知らず彼の机を見ていたことに気付いたクラスメイトが肩を叩いた。
「よ、律誠。どうかした? 有沢のこと?」
「……あ、あぁ。探しに行きたいが居場所の検討が付かなくてな……」
 口元に手を当てる委員長を覗き込むように、級友は人差し指を立ててみせる。
「それなら屋上じゃん? 朝のホームルーム終わってすぐ、屋上階段上ってくの見たし」
「サンキュ。助かる」
 情報を得るや否や、手荷物をまとめて飛び出して行こうとするのにクラスメイトが慌てるのも二の次に。
「オイ、委員長。次の号令どうすんだよ」
「悪い。頼む」
「あぁ!?」
 背後で明らかに動揺していた声もこの際聞かなかったことにして、入り口付近でごった返す生徒達の群を掻き分ける。廊下の端、屋上へと続く暗い階段を駆け上がりながら、ひんやりとした空気が普段と違う場所へ向かう高揚感を煽っていった。
 けれど軋む扉を開けると一転して強烈な光が訪問者を襲う。あまりの開放的な空気にここが学校であることも忘れ、律誠はしばし呆然とその場に立ち尽くした。
 空の青。吸い込まれそうな色。
 毎日見ているはずなのに、地上何階分か高いだけでこんなにも自由に感じる。これが見たくて足繁く通ってしまうのだとしたら彼の気持ちも分からないでもないな、と独白しつつ、ぐるりと屋上を回遊したその時、貯水タンクの裏から僅かに見慣れた上履きの先が覗いていることに気が付いた。
 上手いこと直射日光を避けつつ日陰に寝転ぶその様は実に気持ちよさそうで、時折サワサワと頬を撫でる風が柔らかそうな前髪をも気紛れに揺らしている。教室で見た時よりだいぶ明るく見える漆黒の髪は、陽を浴びてキラキラと光っていた。
 眠ってしまっているのか、傍らに膝を突いてもなお目を閉じたままの雪之にどう声を掛けたものか迷っていると、そんな訪問者の考えなど見透かすかのようにゆっくりと漆黒の瞳が開く。ふるりと震えながら睫毛が持ち上がる様はまるで蝶の羽化のよう。初めて間近で見るそれはとても美しく、吸い込まれそうだと思った。
 音もなく、言葉もなく。
 ただ見つめ合ったふたりの間を裂いたのは無情にも彼の拒絶だった。
「邪魔しに来たんなら帰れ」
 低い声音。野生の獣のように自らのテリトリーを犯す者を許さない、有無を言わさぬ威圧感に気圧される。何事か返そうと開き掛けた口はけれど、その役割を果たすことはなかった。
「……俺に構うな」
 睨み返された眼差しの冷たさに息を飲むまま、閉じられた瞼を見守ることしか出来ないでいる。
 それでも放ってなどおけなかった。
 委員長としての仕事と整理された行動が、実は深いところで別の理由をも孕んでいたとしても、今の律誠には知る由もない。ただ純粋に彼を知りたいと思い、彼を分かりたいと思った。そしてそれは深入りを拒否された今でもなお変わることはない。
 手探りの感情だけがこれからのふたりを導いていた。

guys #05 に続く