guys #05
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息を詰めて見つめ続ける。穏やかな日差しの中、緊迫した空気がひどく不似合いだと思った。
俺に構うな───
二の句を告がせぬダメ押しに律誠はぐっと言葉を呑む。それきり、訪問者など最初からいなかったかのように固く瞼を閉じたままの雪之を見下ろし、そろそろと息を吸い込んだ。
その目をもう一度見たいと言ったら、彼は何と言うだろうか───。
緊張を強いられながらも冷静なもうひとりの自分が今の状況を俯瞰する。余裕などあるわけがないのに、常に全体を把握するよう己の感情を一歩引いて分析することがもはや習慣になっている委員長にとって、相対する衝動が己の中で両立していることに戸惑いさえ覚えた。
あぁ、まるで手に負えない初めての感覚。
穏やかに擦り抜けてゆく春風に髪を遊ばせながら、そっと笑みを浮かべる。整理し難い感情は、取り付く島のないトラブルメーカー同様、律誠の心を揺さぶるのに充分だった。
「……いつ、戻るんだ」
だからそっと声を掛ける。彼のガードがこれ以上堅くならないように。
「なぁ、有沢……」
けれど、続けるはずの問いは突風によって遮られた。
ザッと音を立てて巻き上がった風に乗り、地上十数メートルの屋上にまで届けられた花びら。粉雪のようにひらひらと舞い落ちる様子にしばし見とれる。それにいつから気付いていたのか、くすりという笑い声に目を向けると口端を上げる雪之の姿があった。
闇の色を映した瞳に掛かる二重瞼。目が悪いのか、伸びた前髪の間から睨み付けるような視線を寄越す。うざったそうに髪を掻き上げるたび、黒絹のような細いそれがサラサラと指の間から零れ落ちるのが印象的だった。
「……おめでたいヤツだな」
冷たくはない、けれど暖かさのない声。
「俺、あんたの名前だって知らないんだぜ。いちいちそんなヤツの言うこと聞くバカはいねぇだろ」
だからもうどっか行ってくれ。
面倒そうに眉を潜める姿に心がささくれ立ち、律誠は咄嗟に手を突いた。
「知らないなら、知ってくれればいい。───俺は片岡だ」
普段は凛と通るアルトは今、軽い焦燥感と怒りで深いテナーへと彩りを変える。言い含めるように真正面から向き合う律誠に対し、雪之は不快感を隠そうともせず眉を寄せて見せた。
「……バッカじゃねぇの」
ポツリと呟いたのを最後に目を閉じる。これ以上話すことは何もないと背を向けるのを見、訪問者は初回の謁見の終わりを悟った。
立ち上がったと同時に響く、昼休みを告げる鐘の音。
それを合図に階段へと踵を返しながら、律誠は今し方の対話について強く気を引かれた事柄を反芻していた。
自らのテリトリーを犯す侵入者の存在を頑なに拒む、まるで野生の獣のような敏感さ。それを露わにされるほど、ラインを踏み越えてしまいたいという欲求が律誠を襲う。
あまりに予想だにしなかった衝動に目を瞑り、何度か頭を振ってその考えを振り払うと、委員長はもと来た廊下を足早に歩き出した。
guys #06 に続く
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