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 2007年10月 

guys #12 

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 その夜、律誠は眠れない時間を持て余していた。
 目を閉じれば鮮明に甦るフラッシュバック。見返した瞳はどれも揺れていたことを今更のように思い出した。
 およそ自分の知る限り、誰に対しても屈託なく接していた幼馴染み。垣間見せるだらしなささえ大らかな彼の味となって周囲に好意的に受け入れられていた男だったのに。

 あんなヤツに構うなよ───

 吐き捨てたその一言がこんなにも胸を締め付けるなんて思わなかった。それが一時的な感情であるならば───そう、あの時自分は雪之のことしか見えていなくて、それまで話をしていた彼を置き去りにしたわけだから、そのことによって疎外感を感じたとしてもおかしくはない。無理に言い訳を探しながらも、その可能性が限りなくゼロに近いことに律誠自分自身気が付いていた。
「……あれは本音、だ……」
 そして行き場のない苛立ち。
「どうして……」
 ベッドに身を起こし、両手で顔を覆う。深い溜息が指の間から漏れてゆくのに任せ、委員長は唇を噛み締めた。
 こんな時、思考回路から行動パターンまですべてお見通しの幼馴染みという立場が苛立たしい。自分に彼のことが分かるように、彼もまた今のこの自分の狼狽えぶりを易々と想像しているのだろう。会わない時間さえもふたりの間を埋めてゆくこの関係は、長い年月を共にしたからこそ成り得るものであり、逆に言えば一切の誤魔化しの利かない恐さをも内包していた。
 彼の、雪之に対する反発心。
 その理由が分かり過ぎるだけに、律誠はこれをどうすることも出来ないでいる。彼と仲良くやってくれと言ったところで和哉は話を聞かないだろうし、むしろトラブルメーカーを庇う相手から裏切られたとさえ感じるかも知れない。人一倍明るい普段の彼からは想像し難い闇に律誠はそっと目を閉じた。
「どうすればいい……」
 自分は人を切り捨てることが出来ない。これは性分かはたまた義務か、或いは単に自覚していないだけなのか判別は付き兼ねたけれど、幼馴染みの和哉も、未知数の雪之も、自分にとって失いたくない存在なのだと、そしてその重さは天秤になど掛けるべきではないし、計れるものでもないと強く感じていた。
 これから先、どうすれば皆笑えるようになるのだろう。
 明確な解はない。ふと窓の外を見上げれば、夜空に映える銀色の三日月が静かに自分を見下ろしていた。連鎖するように脳裏に浮かぶ雪之の瞳。冷たく冴えた月のように、誰かに心を開くことがないまま想いを固く閉ざしている。話し掛けるたびにべもなく拒まれるというのに、それでも追わずにはいられないのは、荒げる声でさえ隠し切れない彼の孤独に触れたから。
「有沢……。せめて話を、してくれないか」
 月を見上げ、ひとり呟く。
「何でもいい。俺のことでも、おまえのことでも。知って欲しいし、知りたいと思うよ」
 悲しいほど刹那な姿。
「今はまだ俺のこと、信じてくれなくていいから……」
 だからどうか、こちらを向いて。
「俺の名を呼んでくれないか」
 律誠、と───。
 振り仰ぐ上空の風は早く、あっと言う間にたなびく雲を引き連れる。雪之の幻を取り上げるように細い月を覆い隠したそれを見遣り、律誠は痛みで眉を寄せた。
 彼のことばかりが浮かび離れない。
 このままどうなるのか何ひとつ分からない。
 不安ばかりが澱のように積もってゆく中、身動きの取れない魚は網の中で藻掻きながら目まぐるしい季節を追い越してゆく。

 暦は、夏休みに入ろうとしていた───。

guys #13 に続く