guys #13
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穏やかな日差しが熱へと変わる。
目眩く日々の中で夏を越えた彼らは、それぞれの日常に没頭しながら気が付けば秋の訪れを感じるようになっていた。ついこの間まで暑さに辟易していたはずなのに、半袖のシャツでは肌寒いとさえ思える。左袖のイニシャル刺繍も凛々しく、風にネクタイをはためかせながら、委員長は今日も大量のプリントを抱えて生徒達でごった返す廊下を往復していた。
夏を越え、来るべき秋。
本格的に始まった文化祭の準備で各クラスは俄に活気付いていた。連日のように行われる生徒会執行部主催のミーティング。模擬店出店予定団体の代表は出席を義務付けられており、それはクラス展示であっても同様だった。ゆえに、クラス委員を務める律誠は執行部会議室に足繁く通うこととなり、説明のためとあらばこうして執行部役員分のレジュメを持って馳せ参じる次第である。
「……紙の無駄という意識はないのか……」
ポツリ、独白するのも無理はない。各クラス、各学年、そして各団体ともなればその数たるや十や二十では足りないのだから。けれどそんな素朴な疑問など掠め取る勢いで加速してゆく独特の雰囲気も、文化祭ならではで嫌いではない。何より仲間とひとつものを創り上げるを醍醐味は格別だった。
「さて、と……」
資料の受理を以て簡単な労いの言葉と共に部屋を出る。搬入物の事前申請の件でもっと押し問答することを予想していた律誠としては、この後30分ほどを予備として確保していたわけで、ぽっかり出来た自由時間に、さてどうしたものかと口元に手を当てた。
このまま教室に戻って展示準備の様子を見るのもいいし、係分担を決め切ってしまうのもいい。それとも大型パネルを融通してくれるよう、文化祭実行委員に掛け合ってみようか。はたまたクラス展示のPRの件でパンフレット制作部と打ち合わせでも───。
「よ、律誠!」
「わっ」
後から後から湧いて出る仕事の遣り繰りを考えていたまさにその時、背後からギュッと抱き付かれる。同時に響いた声はまさに幼馴染みのそれで、振り返れば案の定、満面の笑みが至近距離に。
「……和哉。おまえな、いきなり抱き付いたら危ないだろう」
「まーまー、そう固いこと言いなさんな」
何とか引き剥がした相手は実に呑気なもので、頭の後ろで両手を組ながらにこにこと委員長の顔を覗き込んだ。
「お祭りの準備じゃん?」
「……あぁ、おまえ好きだもんな。昔から」
「だってなんかワクワクしない? 俺絶対見るよりやる方が好き」
屈託のない笑みにつられて笑う。そういえばこんな風に力を抜いて笑ったのはいつ以来だったろうかと思う傍で、和哉は子供の頃と変わぬキラキラとした目を見せた。
「そういえば律誠、クラス委員だから展示の仕切とか大変だろ」
「毎日毎日お役所通いだ」
「……うわ、俺パス」
執行部室の堅苦しい雰囲気から、そこをお役所と揶揄するのが生徒達の間に広まっている。効果はテキメントばかり、和哉が思い切り眉を顰めた。
「そういうおまえだって何かするんだろ、テニス部で」
「おー、そうそう。俺ら喫茶店やんの」
水を向けると嬉しそうにパッと笑うのさえ昔から変わらない。
「へぇ。やっぱり運動部は企画の自由度が違うな」
文武両道を掲げる常和では、文化祭は文化部の檜舞台という位置付けが基本であり、それにクラス展示が加わった形で大枠を成す。運動部の参加は自由で強制力は一切なかったが、なぜかテニス部は伝統的に毎年参加しており、都度話題を浚っていた。
「今年は去年の比じゃないぜ? なんてったって女装だからな」
「は!? 本気か!?」
「本気も本気。しかもレギュラーは拒否権なし!」
嬉しそうに報告してくれるがだがしかし、レギュラー陣の顔を思い浮かべて律誠は悶絶することとなる。お世辞にも線の細くない、しっかりと筋肉の付いた手足がスカートやブラウスの下から覗くのかと思うと同じ男として目を覆ってしまいそうだった。
「……あ、待て。レギュラーってことは、もしかしておまえもか?」
「あったり前じゃん。しかもメイドさんだから、俺」
「メイド!?」
幼馴染みだけにダメージ度MAX。けれどこの男は明らかに楽しんでいるらしく、悪戯をする時の目ですまして見せた。
「……なんでそんな色物に……」
「話題性とインパクトは客商売に付き物なのだよ、律誠くん」
「あーあー、そうだな。そうだよな。おまえがメイド服着たら脳裏から離れなくなって魘されるもんな」
「それどーいう意味だよ」
「サブリミナル効果」
「誉め言葉だな?」
「たぶんな?」
顔を見合わせて吹き出して。何だかんだ言っても浮き足立っているのはお互い様、ならば楽しんでしまおうと素直に思えた。
この後綿密な打ち合わせがあると真剣な顔で宣う和哉を見送って一息吐く。途中何度も緩んでしまう頬、寄ってしまう眉間の皺を交互に押さえながら、律誠もまた教室へと足を向けた。
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