guys #22
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翌日。病欠扱いの雪之を見舞った律誠は、そこで初めて怪我の理由が喧嘩などではないことを告げられた。
初めて訪れる雪之の部屋。
彼らしく余計なものの一切ない、殺風景とさえ思えるモノクロの空間に昨夜の熱も冷めやらぬふたりが向かい合っている。緊張と遠慮の交錯する波が言葉を不自由にさせた。
「"儀式"……?」
「……簡単に言えばな」
ベッドに半身を起こした雪之の身体にはあちこちガーゼや絆創膏に覆われており、昨日のことが夢だったのではないかと思いたかった訪問者の僅かな希望を打ち砕く。痛々しいほどの様相に戸惑いを隠せない律誠を余所に、淡々とした口調で意味深な言葉を呟いたクラスメイトは、だが流していた視線をすっと戻し正面から向き合った。
「あいつらから抜ける」
それは即ち脱退の洗礼。仲間であることをやめ、これまでのすべてを精算するためには必要なものだったのだと。
「それならもう、あの連中と関係を続けないと思っていいんだな」
「そのための制裁だ。……じゃなきゃやり返してる」
恐る恐る確認した律誠に対し、憮然とした表情が返される。こんな時だけ年相応に戻る彼の内面の変化を推し量ろうにも、今の委員長には手が回らない。
「やられっぱなしだったのか? ずっと!?」
「……そーいうモンだからな」
目を丸くする相手に苦笑を浮かべ、そっと前髪を持ち上げる。珍しく覗く形のいい額。それを随分久しぶりに見たと気付いた律誠は、そういえば初めて目にしたのはいつだったかと思い返し、彼と初めて会った屋上でのワンシーンに思い至る。……あの時、彼は悪戯な春風に髪を預けながら無防備な寝顔を見せていたのだった。今思えばあの時から、自分は雪之しか目に入らなかったのかも知れない。
ごくり、と喉が鳴る。
静かな部屋に予想以上に響いたそれを誤魔化そうと口を突いて出た言葉は、存外彼の袖を引き止める内容で。
「急、なんだな……」
案の定訝る眼差しに眉を寄せながら、それでも「これまでのおまえにとっては大切だったんだろう」と続けた。
「うん……まぁ。でも、俺にもよく分かんね……」
珍しく言葉を濁した部屋の主は、長い指で髪を梳くと、そのまま掌をギュッと握った。何かの決意の現れのように力が籠もる拳を見遣りながら、何故だろう、鼓動が早くなってゆく。
「唐突に思い立ったわけじゃないから。前から考えてたんだ」
「何かキッカケがあったのか」
「キッカケ……」
遠くを見るように目を細めた雪之は、取り出した思い出をひとつひとつあやすように口端を持ち上げる。やがて辿り着いた答えに、律誠は再び目を見開かされる結果となった。
「おまえかも」
「俺!?」
「おまえがあんましつこいから」
そう言ってニヤリと笑う、それは既に確信犯の顔。
「何度振り払っても声掛けて来んじゃん。最初はウザイって思ってたんだけど……」
「思ってたのか……」
明らかにムッとした声を悟られたか、雪之が声を立てて笑う。およそ初めて見る表情、初めて聞く笑い声。
「俺、他人にそんな風に構われたことなかったし」
「………え?」
「おまえ言っただろ。分かり合いたいって」
それは彼が自暴自棄になったあの日。心の底から願っていた言葉。
「あれが、キッカケといえばキッカケ」
それを彼が受け止めてくれたという事実。願いが叶った瞬間だった。
はにかむように雪之は笑う。
「……正直、嬉しかった」
そう言って、目を細めて。
「おまえに会って、自分が少しずつ変わってるのが分かるんだ」
僅かに身動ぐ衣擦れの音だけが届く室内。もう、呼吸するのさえ勿体ないほどの。
「だから、もっと正面から向き合うべきかなって思ってさ。俺なりのケジメ」
唇を横に引いて、ニッと笑う。少し得意気な意志を伝える彼なりのやり方。
だが、いつまで経っても反応がないばかりか、胸が詰まって相槌さえ打てないでいる相手に焦れた雪之は、とうとう片手で律誠を小突いてみせた。
「おら、何とか言えよ。ひとりでベラベラ喋ってたら恥ずかしーだろっ」
見間違いでなければうっすら染まる頬。それを誤魔化すように大きくなる声。だが、今はそれさえも認める余裕のない訪問者はただひたすら目元を潤ませ口を覆うばかりで。あまりの挙動を不審に思った雪之が覗き込むと、それを避けるように更に俯きを深めつつ、ポツリと呟く声。
「……ごめん」
「あ?」
「ごめん。ちょっと、その……おまえがあんまり素直だから俺、」
感動して……。
それ以上の言葉のない相手に一瞬ポカンと呆けた雪之は、次の瞬間脳内配線の切れる音を聞く。
「ア・ホ・か・お・ま・え・はーっ」
そうして近所にまで響き渡った大声で我に返る者、自我を見失う者。二者それぞれの様相を呈しつつ、ここにふたりの新たな一歩が刻み込まれた。
guys #23 に続く
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