cross #07
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君は───。
その先に続く言葉を、キリエは口にすることが出来なかった。
彼は、吸血鬼なのかも知れない。
ツ、と背を伝う冷たい汗。まさかと思う一方、これまで幾度も対峙してきた彼らから感じる波動によく似ている。明らかに普通の人間からは発せられぬそれを受け、目の前の少年に対する警戒心が一気に跳ね上がった。第六感が警鐘を告げる。カラカラに渇いた口内、唾液を飲み込むことさえ出来ず、引き連れる喉の痛みだけで辛うじて現実と繋がっていた。
「……どうした?」
「えっ……あ、いや……」
言い淀んだまま俯くのを具合が悪いと取ったか、なおも顔を覗き込もうとするのをさり気なくかわし、代わりにキリエは周囲の状況を分析する。
「ここは、君の家だよね」
「……そうだけど?」
場にそぐわない質問に若干訝る相手に無理矢理笑みを作りつつ、キリエは自分に落ち着け、落ち着けとただひたすらに言い聞かせた。
スレイヤーの自分を見つけてトドメを刺さなかったどころか、こうして自宅に連れて来たのにはきっと何か訳がある。彼が吸血鬼ではない場合単なる人助けでしかないが、吸血鬼であった場合はこの後どんな拷問が待ち構えているか分からない。或いは死、あるのみか───。
どのみち真実を把握し、最悪の事態は避けなければならない。大きく息を吸うとキリエは透視に集中した。
寝室から続く白いドア越しの広いリビングキッチン。ほぼ東西南北に窓を取る採光重視の造りで、浴槽の真上には天窓まで設けてあるという拘り様。すべてに無駄がなく、すべてが美しかった。そこまでを一瞬にして把握した訪問者は、いくつかの疑問を解消すべくそうと知らせぬ謎掛けを始める。
「変な聞き方でごめん。……この部屋、光が当たって凄く気持ちがいいから、羨ましいと思ったんだよ」
「あー、うん。だろ? 俺も気に入ってんだ。特にリビングが凄ェ朝日入っていい感じなんだよねー。このドア開けとくとさ……」
途端部屋中に漏れ広がる透明な光に目を覆う。
「……あ、ごめん。眩しい?」
「いや、びっくりしただけだから……」
慮るように眉を寄せるのに目を細めつつ、がなり立てる心音を必死に押し殺した。
彼は今、溢れんばかりの光を受けて立っている。窓からの入射も含め、直射日光を全身に浴びて灰にならないということは、少なくとも条件に該当しない。これだけで現代生活への順応者とは言い切れまい。
1つ目のキーワードが消えた。
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微妙な距離感でのファーストコンタクト。
相手が上手なのか、はたまた第三者なのか、それはこれからのお楽しみです〜。
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cross #08 に続く
cross #06
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夢を見ていました
懐かしく遠い日々
あの頃の君の笑顔が
何よりの宝物でした
今はひとり彷徨い続ける
氷のナイフを胸に抱いて
目を開き、最初に見えたのは真白の天井だった。
見知らぬ場所。捕獲されたのでないことは体の自由ですぐに知れた。
確かめるように数度瞬きを繰り返し、全身に力を込める。途端襲う激しい痛みに息を詰め、やがてそろそろと吐き出しながら、キリエは瞬断した記憶を手繰り寄せた。
闇に閃く白。
切っ先が食い込む衝撃。
自身を襲った輩のあからさまな敵対心を受け止めながらも、雨に流した血は彼に死を与えない。更には驚異的な回復力が既に傷口さえも塞いでいた。
胸元に掌を翳し、肘を突いて身を起こす。改めて周囲に目をやった視線の先には、じっとこちらを見つめる瞳があった。
「……目ェ醒めたんだ」
「………君は……」
誰何の声に、この家の主と思しき少年は僅かに小首を傾げてみせる。開き掛けたままのドアを後ろ手で閉めると、ゆっくりとベッドの傍らに腰を下ろした。
「覚えてないの? おまえ、倒れてたんだぜ」
「あぁ、うん……。君が助けてくれたのか」
ありがとう。
小さな礼に苦笑が返る。笑った顔は先程よりも更に彼を幼く見せた。
白い肌にサラサラと掛かる茶色の髪は小動物のようで、17歳だという実年齢を分からなくする。冬夜シンと名乗るその少年は、キリエの様子が尋常じゃなかったこと、苦労して家まで運んだこと、譫言のように誰かを呼んでいたこと、朝まで付き添っていたことを話した。
「熱も随分出たし」
「手間を掛けてしまってすまなかった」
「ま、いーよ。困った時はお互い様だろ」
そう言って屈託なく笑う冬夜は、未だ警戒を解き切れていない病人などお構いなしにその額に手を置くと、下がったな、と呟いた。
だが───。
「…………!」
触れた指先。
見つめた瞳。
冬夜と至近距離で面と向かった途端、キリエの身体に電流が走った。
この感覚に覚えがある。この違和感に覚えがある。理屈ではなく、身体が知っている。
「君は───」
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ようやくお話らしくなってきました。会話があるって素敵……!(涙)
これから七転八倒しつついろいろ展開させていきますよー!
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cross #07 に続く
cross #05
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雨の中、対峙する白。
ジリジリと詰め寄る黒服達の中で、唯一それだけが闇に浮かぶ。心臓を一突きにすることで不死身の相手さえ殺せると伝えられる、白木の杭である。
緊張で指先が冷たくなるのが分かる。
心音だけがやけに大きく聞こえていた。
スレイヤーが気配で敵を知るように、彼らもまた自らの存在を危ぶませる相手の動きは熟知している。当然キリエが近付いて来ているのは薄々気付いていただろう。だが、こんなにも早く、しかも正確な位置を突き止められるとは予想もしていない。明らかに数年前とは変わっている彼らの組織力に、スレイヤーはただ唇を噛むしかなかった。
コツ、と響いた靴音が合図だった。
間合いを詰めた相手が一気に懐に入り込もうとするのをすんでで避け、背面を壁に取り体勢を立て直す。矢継ぎ早に空気を切り裂くヒュッという音を捉え、身を屈めて足を掬った。
「……くっ」
転倒してもただでは起きないというのか、一際大きな犬歯で切り裂こうとする輩を蹴り上げ、鈍い音を背中に聞く。だがスレイヤーの力を発揮すべく消滅の印を結ぼうにも、多勢に無勢、しかも雨。おぼつかない足元に気を取られ攻撃はやがて防戦一方になり、泥濘に気を取られた一瞬の隙を縫って視界端に捉えた、白。
「………ぐ……ぁ、っ」
切っ先が胸を抉る。
めり込んだ杭が骨を砕く音。
迫り上がる血液で口内は鉄に染まり。
耳鳴りに反して外界のすべての音が無音になる。
「は、…っ」
息が出来ない。息が出来ない。吸うことも。吐くことも何も。苦しい。苦しくて堪らない。こんなところで躓くなんて。こんなところで。もう少しなのに。もう少しで手が届くのに。"彼" に届くのに。"彼" に最後をあげられるのに。
この手で息の根を止められるのに───。
煙るような雨にすべてが覆われてゆく。
黒い血は洗い流され、蹲る身には神の慈悲さえ与えられない。
昏倒したキリエはそれきり意識を失い、冷たい路上に身を投げ出した。
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いつになったらBLになるんだとお怒りの声に怯えています……(T-T)
でも実はこういう戦うシーンを書くのが大好きです。瞬間を切り取るのが特に。
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cross #06 に続く
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