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 2007年11月 

guys #25 

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 天高く馬肥ゆる秋───。
 穏やかに晴れ上がった空はどこまでも澄んで気持ちがいい。深呼吸をした空気は夏までのそれとは違い、ひんやりと肺を満たしてゆく。これまでずっと準備を進めてきた文化祭の当日を迎え、非日常的な空間に誰もが浮き足立っていた。
 一般公開された校内は既に他校の学生や近隣の住人でごった返している。普段はブレザーの濃紺一色な世界が今日は色とりどりに彩られ、派手なパフォーマンスや客寄せの音響がお祭りの雰囲気を盛り上げていた。そんな中、一風変わった展示として早くから注目を集めていたのは2年C組───律誠達のクラスである。
 民俗をテーマにしたクラス展示。普通であれば調査結果の掲示程度で終わっていただろう。けれど敢えて創意工夫を凝らしたのは、自分達も、そして訪れてくれた人達にも楽しんでもらいたかったから。
 教室の入り口で好きな国の衣装を身に着け、パネル展示で歴史や文化を学び、工芸品から生活を感じる。その国の言葉を覚え、その国の歌を歌い、最後にその国のポーズで記念撮影をする。写真はデジカメからパソコン経由で携帯に送ったり、プリントして記念にプレゼントしたりする他、歌や言葉はカードとして持ち帰れるなど、体験をここだけで終わらせない工夫もした。そのための適材適所、人員配置は完璧である。
 オープン前にひととおり実地確認を行った律誠は出口で衣装を脱ぎながら、つくづくこの大仕掛けをよくやったものだと笑みを浮かべた。服飾に興味があると名乗り出てくれたふたりが作ってくれた服達。衣装を身に着けることでよりその国を身近に感じることが出来るとの提案は改めて立証された。
 それが1時間前のこと。
 そして今、入り口付近に人だかりが出来ている事実が自信を後押しする。尤も、口八丁なジャーナリストの呼び込みが功を奏しているとも言うのだが。
「はいはーい。文化を知るにはまずは体験しなくちゃねー?」
 パッチリとウィンク付きで客引きをする有栖はハンターさながら、クラスメイトのやる気を煽るため可愛い女の子の引き込みに余念がない。入り口で民族衣装を見せながらきゃっきゃと笑い合う姿はどこから見ても女子校のノリで、当然クラス展示に駆り出された交代要員達のテンションは急上昇。それに伴って外周整備もフル回転の状態で、律誠はクラスの様子見もそこそこに外来対応や列整理に追われることとなった。
 そんなバックヤードに徹している委員長を余所に、教室の一部で黄色い声が上がっているなど誰が想像出来ただろう。仕事の交代で律誠を呼びに来た有栖は、実に意味深な笑みを浮かべてこう宣った。
「ちょっと、お姫様が大変ヨ」
「……は?」
「有沢が顔真っ赤にして声震わせてんの。超可愛いんだからー」
「は!?」
 明らかにミスマッチな人物と単語の組み合わせに眉を潜めつつ、兎にも角にもと人混みを掻き分けたその先───人垣の中心に彼の人はいた。文字通り、耳まで赤くして。
「………う、『ウォー・アイ・ニー』」
「……!?」
 聞こえてきたのは耳慣れない中国語。練習したのだろうと分かる綺麗な発音は、だからこそより一層現実感を煽っていた。
「すごーい。発音綺麗ー」
「じゃあこれはー?」
「……『テ・アモ』」
「こっちは?」
「……『イッヒ・リーベ・ディッヒ』……」
「それってどういう意味なんですかー?」
 実に自然に、かつ真直ぐな眼差しを向けられて固まっている雪之と来訪者を交互に見比べながら、ようやくのことで律誠は合点がいった。
 クラス展示にはひとり一役をモットーにしている。有栖が事前に調査した通り語学に長けている雪之は、各国の簡単な文章例をカードとして用意する他、訪れた人達にそれを説明するという役目を担っていた。当然そこには発音という壁があり、目の前で実演してみせることを前提としていたが、落ち着いて考えれば男子校育ち。同年代の女性に囲まれ、かつこんなセリフを連発させられていたのではフリーズするのも時間の問題だった。
「じゃあ、これは? 韓国語?」
 ひとり、チマチョゴリ姿の女の子がカードを差し出す。
「『サラン…ハムニダ』……」
「サラン? それ聞いたことあるかも。『愛してる』かな?」
 キャー!と声が上がる。赤みを増す雪之の頬。叶うなら今すぐ消えてしまいたいと思っているであろう心境が空気伝達されるほど、女性軍とは対照的な絵面だった。
「えーと、盛り上がってるトコごめんねー。ちょっと後ろがつかえてるから、このへんで」
 すかさず出された有栖の助け船によって一難を逃れた頃には、雪之はガックリとその場に崩れるしかなく。
「もうヤダ………」
 そして泣くしかなかった。
「凄いねー、有沢。朝っぱらから告りまくりじゃん」
「本意じゃねーよっ」
 揶揄う有栖にキッと睨み返すものの、その目尻に涙が溜まっているあたりすっかりヘタレ込んでいる証拠である。
「まぁまぁ。……でも発音本当に綺麗だった。練習したんだな」
「そりゃ、ちょっとはやるけどさ。何もあんな文章のカードばっか引き当ててくんなくてもよくね!?」
 にっこりと律誠が目を細めると、深呼吸をした雪之はようやく素の表情を取り戻す。既にふたりの間に何かしらの空気感が存在していることに気付く者は約一名、そっと口端を持ち上げるに留め。
「雪之だから出来る役目じゃないか。しっかりな」
「お、おまえ、どこ行くんだよ」
「俺? 俺は外来担当だから……」
「俺と交代して少しは辛さを味わいやがれっ」
「うーん……そうしてもいいけど……」
 でも俺はひとりにしか言いたくないからなぁ。
 そんな呟きはタイミングのいい校内放送によって掻き消され。唯一傍らの有栖がキャッチしていたあたり、さすが情報屋というところか。
「ま、そんなわけで。俺の分も頑張ってくれ」
 満面の委員長スマイルで場をやり込めると律誠は再び仕事に追われる。一方、次なる来訪者に取り囲まれた雪之の断絶魔が教室に響き渡ったとか。

 お祭りはまだ、始まったばかり。

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前回のシリアスからは一転、文化祭当日ということで2年C組にフォーカスしてます。
普段はツンツンなのにたまにヘタレ(notツンデレ)に萌える今日この頃。
そして律誠が強気になってきました。確信犯が大好きです……。

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guys #26 に続く