Monthly archives

 2007年11月 

guys #27 

←前話へ

 夜空に赤々と燃え上がる炎。
 後夜祭はダンスからやがてキャンプファイヤーへと映り、秋の夜長をあっと言う間に駆け抜けてゆく。グランド中央に組まれた櫓を参加者達が取り囲む中、渦中の人物は人混みを避けるように少し離れた植え込みに凭れ、佳境の祭を眺めていた。
 手には先程受け取ったばかりの賞状。皆の努力の結晶。
 それが嬉しくて、まだ信じられなくて、何度も手の中を見下ろしてしまう。そんな気持ちがくすぐったくて俯き口端を持ち上げた時、後ろから声を掛けられた。
「……律誠」
「あぁ、雪之。お疲れさま」
 振り返らずとも肩を並べる気配で分かる。以前は堅守していた距離感は今や嘘のように消え、肩が触れ合うほど近くに感じるそのぬくもり。顔を覗き込めば闇を映した黒曜の瞳が紅の炎に閃いた。
「なんか……いろいろ一遍にあった気がする」
 ポツリ、呟いた声は今の心境。
「昨日までギリギリ粘って準備してたはずなのに」
「うん。随分昔のことみたいだな」
 だから言葉を継ぎながら、律誠もまた本懐を晒す。
「半年前は予想も出来なかったと思うぞ。雪之と喋れるようになるなんて」
「……んだよ。俺だって思ってなかったよ」
「拒まれて避けられて、蹴られて踏まれて殴られて……」
「なっ 蹴ったりとかしてねーだろっ。……まぁ、殴ったけど……」
 揶揄するように目を細めれば忽ち、唇を突き出して異論を唱えるから。そんな必死な様子がおかしくて委員長は声を立てて笑う。そう、こんな風に、彼の前で笑うことさえ想像も付かない奇跡だった。
「雪之がいなかったら、ここまで出来なかったと思う」
「……え?」
「雪之がいてくれたから、俺達のクラスはまとまれたんだって思ってる」
 確かにクラス替え当初はベクトルが定まらず、かつ問題児と称されていた彼の素行のせいでギクシャクしたりもしたけれど。
「違う、おまえが───」
「束ねただけじゃまとまらないよ。雪之が身を持って示してくれたんだ」
 人は皆、変わることが出来る。変わるためには恐れないこと、ただそれだけ。
「少しずつ良くなっていくのを見守るのは、本当に素晴らしい経験だった。毎日が新鮮で楽しくて、このままずっと続けばいいのにと思ったよ」
「律誠……」
「当日を迎えるのが誇らしくて、でも少し勿体なくて」
 けれど同時に、そう感じられる何かを共有出来る至上の喜びに浸っている。
「雪之でよかった」
 出逢えたこと、分かり合えたことのすべて。
「隣にいられてよかった」
 苦しみも喜びもみな分かち合えたからこそ。
「ありがとう───」
 柔らかな溜息のように静かに告げる言の葉を、相手はただ黙って受け止める。しばらくの沈黙を破って返されたのは彼らしい一言だった。
「……んなのとっくに知ってらぁ」
 暗くても分かるほど顔を真っ赤にして。頑なに目を合わせてくれない照れ屋な問題児を可愛いと評したとしても、今だけは許されると思った。
「俺を扱き使いやがって」
「うん、ごめん」
「全然悪かったって思ってねーだろ。俺が一体何人に告りまくったと思ってんだよっ」
「大変だったな。お疲れさま」
 でも、そんなに嫌なら最初からそんなカード入れなきゃよかったのに……。
 ぼそりと洩らしたセリフに動きを止めた雪之といえば、見事にフリーズしたまま遠くを見ている。恐らくは各国の例文をそのままカードに仕立ててしまったのだろう、後の祭りだった。
「……律誠っ」
「うわっ」
 そうしてしっかり臑を蹴飛ばされるという惨い仕打ちを受け。八つ当たりにしてはやけに痛い足をさすりながらも、付け加えられた小声は逃さない。
「……ま、結構楽しかったからいいけどさ」
 そう言ってニッと笑う。
「だからこれは、おまえに」
 ポケットから取り出されたのは白いカード。見慣れたそれ。思い違いでなければ、展示で使っていたものだったはず。余りが出たのかと首を傾げると、おまえ用に書いたの、と付け加えられた。
「俺に…?」
「そ。開けてみ?」
 開いてみればたくさんの外国語が並んでいる。いろいろな国の言葉で「ありがとう」と綴ってくれたものだった。
「……I'm deeply grateful」
 そのうちのひとつを音に乗せる。律誠から雪之へ、もう一度心を込めて。
「おし、いい発音」
 そして自分にだけ向けてくれる極上の笑みに酔って。
「Not at all」
 サラリと返される特別扱いに胸を震わせ。
「ありがとう……」
 恒例の花火が夜空を彩り始める頃、心の中にもまた火種が灯るのを感じる。
 極彩色に照らされる横顔を見つめながら、律誠はひとつの覚悟を決めた。

----------
ここまで会話してるふたりを初めて書きました(#27にしてようやく)
「雪之でよかった」って言うあたり意思表示以外の何物でもないわけですが、
初々しく(しつこく)数話続きます(^_^;)

お気に召しましたら「BL小説」バナー↓をクリックしていただけると嬉しいです♪