guys #29
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祭りの余韻醒めやらぬ翌日。
入り口のゲート、校庭の櫓。各教室も派手に配置を換えた中で、日付だけが当日を踏み越え他人の顔をする。展示の片付けに学校へと赴いた律誠は、各教室を見て回るうち、ふと夢を見ていたような思いに駆られた。
昨夜ここで、この場所で、雪之に想いを告げたこと。
それに彼の応えを伴って未来までも引き寄せたこと。
それらすべてが夢だったなんて言わせない───。
奥歯に力を入れ、再度周囲を見渡した先、見知った後ろ姿が支柱を運ぶのが見えた。
「和哉」
まだ午前中だというのに既に汗まみれの笑顔が、振り向き様に破顔する。
「よぉ、律誠!」
「売り子もしたのに片付けまでお疲れさまだな」
「それがもーさぁ、先輩連中昨日のキャンプファイヤーで風邪引いたとか言って。ひどくね?」
奥の方にもうひとりの姿が見え隠れするものの、模擬店まるまるひとつをふたりで解体するのはあまりに非現実的というものだろう。それでも部屋の片隅に積み上げられた機材の数が彼の戦果を物語る。さすが普段から鍛えている人間は違うな、と感嘆の声を漏らすと、幼馴染みは照れくさそうに笑った。
「あ、それより聞いたぜ? 昨日有沢と一緒にいたってな」
その名が彼の口から出ることに未だ緊張を隠し切れない自分はつい身を強ばらせてしまうのだけれど、そんな友人を気持ちよく放り出すように、目の前の彼は柔らかな顔をしていた。
「責めてるとかじゃないから。……俺にだけは嘘吐かないで、律誠」
その優しい声が、優しい眼差しが、粗野で強引でありながら彼を一括りに出来ない一因を作る。そしてそれを幼い頃から見ていた自分自身、この優しさを前にして誤魔化すことなど出来ないと知っているから。
「……好きだと、言ったよ」
単刀直入に告げる。上滑りしてしまいそうな言葉は、けれどしっかりと受け止められた。
「そっか」
「驚かないのか!?」
「何を今更」
顔を見合わせて、瞬きをして。それからプッと吹き出して。
あぁ、このタイミングだったとお互い懐かしい空気を思い出す頃には余分な力も抜けていた。
「……で? あいつは?」
「うん。……同じ気持ちだと言ってくれたよ」
「じゃあ付き合うってことだよな?」
「あぁ」
静かな頷きに何度もそうか、と繰り返していた和哉は、けれど次第に遠くを見るように目を細くする。終いには「娘を嫁に出す父親ってこんな感じかなぁ」などと言い出す始末で、もうどこからフォローしていいのか判断に窮する律誠だった。
「あのなぁ、俺は娘って柄でもないし、別にどこか遠くにいくわけでもないだろう」
「何言ってんだよ。ガキの頃から一緒にいたんだから似たようなもんだ。あー……鳶に浚われた……」
「もう、和哉は……」
哀愁さえ漂わせ始めた相手を眉を下げて窘めつつ、長年に渡って培ってきた絆が寂しさを感じさせているのだと分かるから。
「……俺の幼馴染みはおまえだけだよ、和哉」
真直ぐ瞳を覗き込んで。
「それはこの先どんなことがあっても変わりはないし、俺とおまえだから分かることだって減るわけじゃない。……そうだろう?」
「……あぁ」
見返す眼差しに力が戻るまで逸らさずに。
「分かったよ。しっかりな」
「ありがとう……」
新しい一歩のために背中を押してくれた相手に心からの感謝を込めて。それに笑みを返した和哉は額の汗を拭ってふと、思い出したようにその手を止めた。
「そうだ。そういえば、文化祭前の約束、覚えてる?」
「試合見に行くっていうアレか?」
「そうそう。来週の土曜日、絶対だかんな!」
まるで子供のように唇を尖らすのは昔から変わらない、照れている時の彼の癖。
「あぁ。必ず見に行く。ふたりで応援するよ」
「えー。有沢もかよ」
「……俺が何だって?」
突然の声にふたり揃って振り返れば渦中の人物が立っている。明らかに訝し気な表情を崩さないまま和哉と律誠を往復する視線に耐えられず、最初に吹き出したのは委員長だった。
「雪之、来週の土曜日空いてるかな」
「んだよ、突然。……まぁ、空いてるけど」
ビンゴ♪と片目でウィンクして見せた幼馴染みを止める手段はもうない。それを経験で知っている和哉は矢継ぎ早な展開に諸手を挙げるしかなかった。
慌ただしく互いを紹介させ、クラスメイトからの呼び出しにその場を去って行くふたりの後ろ姿を見送りながら、今し方雪之と握手を交わした右手をじっと見下ろす。これから先、幼馴染みが手を取る相手。自分じゃないのがまだ少し寂しいけれど、律誠が選んだ人間なら受け入れたいと思う。
そう、自分達にはこれまで積み上げた礎がある。それは誰にも真似出来ない珠玉の歴史。だからこそ、自分は彼の背中を押し、自分もまた明日に向かって生きることが出来るのだ。
強くなれますように。
心も、身体も。
「和哉ー。パネル運ぶぞー」
「あ、はい!」
遅れて来た仲間の声で顔を上げ、汗と一緒に涙も拭って。
晴れやかな笑顔が頭上の太陽を降り仰いだ。
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和哉フォローの回。幼馴染みの恋っていろいろもどかしいですね。
そんな彼にもお披露目を終え、無敵のふたりはこれから薔薇色の日々。
とはいえ『guys』は次回が最終回です。どうぞお付き合いくださいね!
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guys #30 に続く
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