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 2007年11月 

guys #30(完結) 

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 夕陽がすべてを染めてゆく。
 日一日と短くなる太陽を惜しむように両手に掲げる枝々は、熱に浮かされながら夢を見る。どこまでも伸びる影。それらが瞬きごとに明度を落とすのを見遣りながら、律誠は前髪を吹き上げる風のなすがままにさせた。
 怒濤の片付けを終え、なんとか日常を取り戻す頃には一日が終わっている、この現実。貴重な振り替え休日を返上で働いたクラスメイト達が連れ立って夕食に行くというのを見送って、影の功労者は屋上のフェンス越しに夕焼けと対峙している。傍らでは同じように目を細めた雪之が、もう長いこと黙ったまま立ち尽くしていた。
 誰もいない屋上。
 ふたりが初めて出会った場所。
「……凄ぇな」
 カシャン、とフェンスに手を掛けて雪之が呟く。伸ばした指先は太陽を掴もうとしたのか、金網が阻む先を知りたいと思った。
「デカイ夕日。……溶けそう」
「あぁ。混ざり合えたみたいで気持ちいい」
 思い掛けない返答に一瞬瞬きを遅らせた相手は、我に返ってくすりと笑う。
「委員長がそーゆーセリフを吐くってどうよ」
「おまえの前では素直になっていると言ってくれないか」
「俺に対して煩悩をさらけ出すな」
「……違う。欲情」
 人差し指で、すっと唇を撫でて。ぴく、と持ち上がった肩を引き寄せて。
「凄い。夕日で輪郭が真っ赤だ、雪之」
 吐息が掛かるほどの距離でフェンスに縫い付ける。背中を金網に押し当てた雪之は、だが焦るでなく、慌てるでなく、真直ぐに律誠を見返した。
「なぁ。おまえの眼鏡、光るから外して?」
 ゆるりと口端を持ち上げて問えば。
「……それは遠回しなリクエストだと思っていいかな」
 くすくすと笑い声が応えるから。
「混ざり合うんだろ?」
 敢えて直球を返し。
「言ってみるものだな……」
 視界を覆う影に身を任せる。
 瞼に残る赤の残像。
 唇に宿る熱の衝動。
 引き寄せる腕が、触れ合う唇が、重ね合う舌が、こんなにも熱い。こうしていたら嬉しくて泣いてしまいそうで、眉根に力を入れるしかなかった。
 それはほんの短い時間のくちづけだったのだけれど、ふたりにとって新しい大きな一歩となる。目を開け、互いの顔を覗き込み、熱を帯びた瞳に吸い込まれる。自分だけでなく、相手だけでもなく、ようやく同じスタートラインに立てたことにふたり揃って笑みを浮かべた。
「雪之、好きだよ……」
 柔らかな声音に、俺も、と答え掛けた言葉は、けれど唐突に開いたドアの音に掻き消される。そこにはいつまでも帰って来ないふたりを探しに来た有栖が、古びた鉄扉のノブに手を掛けたまま目の前の光景にポカンと口を開けている図があった。
「……比那?」
 凝視し合うこと10秒経過し、名を呼んでみると、ようやく我に返ったらしき相手は声を上擦らせた。
「…………えーと、俺、お邪魔虫?」
「そうだな」
「律誠!」
 キッパリ言い切る者、それを窘める者。面白いくらい反応の分かれたふたりを前に、未来のジャーナリストは一呼吸置いて自らを仕事モードに切り替えた。
「ていうかくっついたんだ!?」
「おまえ知ってたんじゃないのか」
「だって律誠分かりやす過ぎだもん。よかったね、上手くいって」
「あぁ。ジンクスのお陰かも知れないな」
 後夜祭の花火を見ながらの告白というそれは、元を辿れば有栖から伝授されたものなのだ。
「あ、ホント? それって凄いニュースじゃない?」
 途端、目を輝かせる新聞部にふたりが後退ってももう遅い。
「まさに旬! まさにスクープ! こりゃ書くしかないでしょー!」
「おまえ、校内新聞に載せるつもりじゃないだろうなっ」
「冗談じゃねーよっ」
 事実暴露の危機ともなれば途端声が揃うのを見、一瞬きょとんと瞬いた有栖は次の瞬間派手に吹き出した。
「息ぴったりだね〜」
 感嘆する輩を前に取り敢えず顔を見合わせてみたりして。
「ウソウソ。掲載したりしないって。俺も友達やめられたくないし」
 もうちょっと傍で観察したいしね♪なんて小狡くウィンクでまとめるのに溜息を吐きつつ、そろそろ帰ろうと促すのに従って階段へと足を向ける。
「……律誠」
 小さく呼び止める声。前を行く有栖は気付いているのかいないのか、それとも敢えて気付かぬふりをしてくれているのか、トントンとリズミカルに階段を下りてゆく。それを背後に振り返ると、悪戯をするような目つきの雪之がニッと笑った。
「さっきの分」
 そうしてそっとくちづけて。風のように温度を与えて。
「……あ、」
 思わず右手で唇を触れば、つい今し方の痺れるような熱。
「雪之…」
「オラ、早く来いよ。先行くぜー?」
 恋人の動揺など素知らぬ顔でひとりさっさとドアの向こうに身を滑らせ、軽やかな声を残して階段へと消える。きっと今耳まで赤くしているであろう照れ屋な彼の背中を追って、律誠もまた屋上を後にした。
 沈み行く太陽が闇と共に月を巡らせ、また新しい朝を連れて来る。
 壁を越えたふたりのために、今新しいフィールドが開かれようとしている。
「また怒濤の日々か」
「臨むところだぜ」
 顔を見合わせ、笑みを浮かべ。
 平和な常和は秋を深め、間もなく来る冬を迎えようとしていた。

end.
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お疲れさまでした。『guys』はこれにて完結です!
最後は有栖に報告して風呂敷畳みが無事終了。何とかまとまってよかったです。
あとがきは明日(11/16)、次回連載の告知と同時にアップしますので、
よろしければまた覗いてくださいね。

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