cross #01
闇を裂く紅の残響
目に映る銀の残月
時を奪う災の残痕
胸に抱く君の残涙
繰り返す過ちをどうか赦して
愛することしか出来なかった───
夜があらゆるを統べる。
煌びやかな光を差し出す闇はいよいよ濃く、冷たいアスファルトが夜に誘う。靴音が響く細い路地はまるで迷路で、乏しい灯りが寂しさを際立たせていた。
腹の底を探るような冷たい空気。
肺を満たすそれは血液に乗って身体を廻り、罪深きこの身を蝕み続けた。
年の頃18、9。
その場に立ち尽くした少年は前を向いたまま微動だにしない。肩までの長い紫紺の髪が風に靡くのさえするに任せ、灰の瞳はただ真直ぐに闇を見つめていた。
肌は褐色に近く、暗闇に紛れると気配さえもすっと消える。無表情に近い面立ちは一見すると柔和なようでいて、その実氷のように冷たい側面を覗かせる。心に幾重にもプロテクタを掛け、決して胸懐を晒そうとしない頑なさが彼の背筋を伸ばさせていた。
ふと降り仰げば満天の星。
地上まで届かぬ儚い光をこうして目に映すのは何度目か、数えることも止めてしまった。
自分はたったひとりこの世に生き長らえ、"彼" に会うためだけに果てのない旅を続けている。止まった成長は時間の感覚を鈍らせるばかりで、そうしてもう何十年も、何百年も、気の遠くなるほど長い時間を彷徨ってきた。
孤独は思慕と共に膨らみ、慟哭と共に消える。
悲しみは憎しみになり、怒りは恨みへと姿を変える。
すべてが混ざり合い、抽象的な概念にまで濾過されようとしている中、それでもたったひとつ鮮明に瞼に焼き付いている紅。首筋の傷。───吸血鬼のものだった。
「キリエ」
思い出すだに身の内から沸き上がる怒りに気がおかしくなりそうになる。己を律するように自らの名を呼び、深く深く息を吸った。
悟られてはならない。気付かれてはならない。ここにいることを。傍にいることを。
必ず仕留める。
次こそ、一打で胸を貫く。
ゆっくり息を吐き、再度目を上げる頃には僅かな乱れもない鉄面皮が彼を覆った。
満月の夜、運命の歯車は回り始める。
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新連載スタートです。これからよろしくお願いします。
これまでと印象を変えて、静かに、濃密に、綴って参ります。
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cross #02 に続く
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