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 2007年11月 

cross #02 

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 生温い風が頬をさすってゆく。
 既に人影の絶えた午前1時、天空に架かる月は白磁の光を宿す。切れ長の瞳を左右に流したキリエは、闇に溶けるコウモリのごとく身を屈め、常人の域を外れた跳躍力で一気にビルの屋上へと身を翻した。
 尋常ならざる潜在能力。
 生まれた時から持つ身体性に加え、ターゲットを見抜く洞察力、世界中に広がる情報網が今の彼を後押ししている。
 この数百年間に世界情勢は目まぐるしく変わり、愚かな人間達はいくつもの戦争を繰り返して多くの命を犠牲にしてきた。だがそんなことさえお構いなしに、アンダーグランドでは今尚闇を削って生きている輩が徘徊し、確実に次の獲物を狙っている。たとえば、そう───吸血鬼のように。
 かつて中世の時代、まだ化学が発達していなかった時勢には、人々は不可解な事象や災いを押し付ける象徴として吸血鬼像を創り上げ、また迷信とされながらも土着信仰として長く信じられてきた。今でこそ伝説上の架空の存在となっているが、それは政治的・宗教的理由による弾圧の産物と呼んでいい。何故なら始祖と呼ばれる純血の吸血鬼は未だ生き長らえ、仲間を増やし続けていることが分かっているからである。
 その始祖が見つかったとの情報を受けたのが数日前。
 あの時の息が止まりそうになる緊張感が忘れられない。
 過去の遺恨から吸血鬼を根絶やしにすることにすべてを賭け、始祖をこの手で抹殺することだけを夢に見てきた。もはや生きる目的は "彼" そのものに擦り変わり、どんな犠牲を払っても足りぬほどその存在を渇望する。吸血鬼を仕留める役目を担う者──ヴァンパイア・スレイヤーとして生きる自分にとってそれだけがすべてであり、それ以上求めるものは何もなかった。

 そう、もう何も、失うものなどない。
 すべてを奪われてしまったのだから。

 大きな月を背に従え、キリエは遠くを見晴るかす。
 闇の向こう、面影さえも遠く───。

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この後展開する内容に絡む伏線をあちこちに張り始めました。
これが長編の醍醐味なので、今わくわくしながら書いています。

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cross #03 に続く