cross #09
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ゆっくりひとつ深呼吸をして、キリエは言葉を続けた。
「そういえば、この近くに大きな川があるよね」
透視で脳内に描いた半径2kmの地図。ここから150mも歩けば河原に出ることを知り、それとなく話を向ける。
「犀川のこと? うん、たまに行くぜ。夕方は犬の散歩してる人が多いからさ、だっこさせてもらったりすんの」
「そう。川の向こうには行ったことある? 商店街があるみたいだけど」
さり気なく、何気なく。
心音ばかりが高鳴ってゆく。
「うん」
掌が冷たくなる。汗が滲んでくる。
「橋を渡って?」
「うん。あの橋の上から夕日見るのが好きなんだ。すげー綺麗なの。……あ、でも下流の方は中州があってさ、川幅も狭くて簡単に飛び越えられるから、そこにも行ったりする」
「………そう、か」
決定的な言葉に声が上滑りした。
吸血鬼の最終的な定義に、彼は合致しなかった。
「にしてもおまえ、この辺よく知ってんじゃん」
「あ、うん。僕もちょっと散歩してたんだよ」
無理矢理唇を引いて笑みを作ると、彼もつられて目を細めた。この心の動揺などまるでお構いなしに屈託なく笑う姿を前に、心拍数だけが上がってゆく。
これまでの条件を差し引いても、これだけに合致すれば確かだと思えたキーワード───"吸血鬼は流れる水を越えることが出来ない"。無論本物であれば、鳥やコウモリに姿を変えて川などヒラリと飛び越えるだろう。橋やボートを使っても然り。だが彼はあくまで生身で、その足で、川を飛び越えると言った。これ以上の追随は叶わない。
己の用意した疑問を悉く打ち破る冬夜を前に、遂にキリエは白旗を振る。
全身が凍り付くと思えるほどハッキリと感じた違和感ではあったけれど、あの警鐘は勘違いだったのかも知れない。数百年も掛けて追い掛けてきた始祖の居場所を突き止めたとの報に舞い上がり、更に白木の杭で襲われたことで、神経が過剰になっていたのかも知れない。
無理矢理自分を納得させると、改めて目の前の少年を見つめる。
「……キリエ?」
視線を掬い上げるように問う声。揺れる眼差しを包み込むために訪問者は目を細めた。
「……今度、僕も連れて行ってくれるかな。君の言う綺麗な夕日が見てみたい」
目を合わせて。息を止めて。
やがてゆっくりと形作られる満面の笑みに閉ざしていた心を解いて。
「いいよ。一緒に行こう。絶対気に入るから」
「そうか。楽しみだな」
窓からの柔らかな光がふたりを包む。
だがこの時、キリエは気付いていなかった。穏やかさに隠された本当の意味を───
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取り敢えず史実に基づくひととおりの吸血鬼チェックが終わりまして、シロ。
とはなったものの、それどころではない問題がこの後待っていたり(~_~)
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cross #10 に続く
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