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 2007年12月 

cross #13 

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 端から算段があったわけではない。
 けれど一度蓋が開いてしまったパンドラの箱は、そう容易く閉じることは出来なかった。昔の恋人に面影を重ねることがどれほど罪深いか知っていてなお、衝動をやり過ごす術を持たない。冬夜を目で追うたび胸がザワ付いて仕方がなかった。すべて偽物だ、そう分かっていても焦燥感が煽られてゆく。勝ち目は初めからなかった。
 しばらく泊めて欲しいとの申し出を、家主は驚くほどあっさりと承諾した。
「……いいのか?」
「なんだよ、自分から言っといて。それに傷だって……まぁ、傷口は塞がってるけど、イキナリ動いたりすんのはよくないと思うし。急に追い出すほど薄情じゃねーよ」
 それなら最初から拾わないしさ。
 そう言ってニッと笑う、その鮮やかささえ胸に響いた。
「拾うって……僕は捨て猫か」
「あはは。人間拾ったのは初めてだけどな」
「だいたい君は、恐いとか、危ないとか思わないのか!?」
「だってそんなの、会ったばっかじゃよく分かんないじゃん」
 な、と小首を傾げてみせるから、なんだかもうそんなことはどうでもいいように思えてくる。これが彼の温度なのかと思うと、ひどく居心地のいい傍らに座れることが素直に嬉しかった。
 こうして、ふたりの奇妙な共同生活が幕を開けた。
 突然の来客が居着くという、日常生活に波紋を呼びそうなシチュエーションであるにも関わらず、冬夜は普段と何ひとつ変わらない生活を続けている。17歳だという彼は学校に行くでもなく、かといって仕事に出るわけでもない。一日の殆どを家にいて、あれこれと家事に精を出したり庭を弄る姿に当然疑問の声は投げられたが、生活するための金は定期的に振り込まれるという言葉に御曹司か何かと解釈したキリエはそれ以上の詮索を止めた。
 どのみち、自分のことを聞かれても答えられることは少ない。身分を明かせぬ職に就いていると言ったところで理解が得られるとは考えにくいし、厄介ごとに巻き込まれるかも知れぬと放り出されるのがオチだろう。目の前で呑気に鼻歌を歌いながら料理をしている冬夜を見ていると、もしかしたら、という思いもあった。何度か打ち明けたいと思うこともあった。だが、それを止めたのは守秘義務でも諦めでもなく、敢えて言うなら己の欲。彼にいい自分を見せたいという、無意識層の欲求が働いた結果だった。
「キリエ、皿取ってー?」
「大きい方でいいのか?」
「うん。サンキュ」
 肩越しに覗き込めば、本日のメインディッシュが湯気を立てている。
「……あぁ、美味しそうだな」
「へへ。気合い入れちった。おまえ怪我人なんだから、いっぱい食えよ?」
「ありがとう」
 あぁ、何と言ったらいいのか分からない。この穏やかで安らげる生活。自分の生きる意味を見失いそうになる。ずっとここにいたいと願ってしまう。
「……どうした?」
「いや、嬉しくて……感動した」
「バ、バカかおまえっ」
 頬に朱を散らす姿に目を細めつつ、自戒に嵌めるタガを強める。相反する気持ちを押し込めながら、キリエは銀のスプーンを口に運んだ。

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ふたりの日常編にカメラを戻して……みたら、なんと同棲始まってました(笑)
冬夜のバックグランドはまだお目見えしてませんが、いよいよです……。

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cross #14 に続く