cross #15
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眠りはそう容易く訪れてはくれなかった。
───無理もない。混乱はピークに達しようとしている。唯一の弱点とも言うべきかつての恋人との記憶を抉り出され、目の前に晒され、正気を保てるわけがなかった。
「……違う」
思わず口を突いて出る言葉。
彼に彼女を重ねているわけではない、それはもはや否定出来ない。ふたりが見た目も行動パターンにおいてもよく似ていることは自覚している。それならばこの意味は───彼女と違う人間と分かっていながら好意を持ち始めていることに対する否定、拒絶、或いは絶望。深い孤独の果てに辿り着いた恐怖とも言い換えられた。
求めてもきっと失う。
辛い過去を繰り返す。
「もう嫌だ……」
手を伸ばして、手を伸ばして、ありったけ手を伸ばして、届きそうに思われて。指先を掠め零れ落ちる熱は儚く、情熱を宿したまま深い闇に消えてゆく。後には何も残らない……その面影も、思い出さえも。
「耐えられない……」
キリエは激しく首を振る。追い掛けるように紫紺の髪が肩に散り、ゆらゆらと揺れる闇の空気を混ぜ返した。
もうなくしたくない。
永遠に手に入れたい。
そして。
「刻み付けたい……」
永遠の証を。自分に。そして彼に。
身の内から起こる激しい衝動に全身の血が沸いた。高周波の金属音にも似た耳鳴りが頭を支配し、思考回路は完全に停止する。意識化に鎮めていた深い慟哭。気が狂いそうな焦燥感に煽られ生きる目的すら忘れたスレイヤーは、早鐘を打つ心臓に手を置き、目を閉じた。
瞼に映るは君の横顔。
飢えた魂へのレクイエム。
絶望の黒。
激情の紅。
そして がらんどうを飾る、無情の白───
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失う恐さを奪うことで埋めようとしている怖ろしさ。
それが分かっているからなお自分自身が恐いんだろうな。難しい…。
この続きは明日!
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cross #16 に続く
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