cross #20
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一度外れた歯車は、そう容易く元に戻ることはなかった。
あれ以来毎晩逢瀬を重ねるようになったふたりは、これまでの時間を埋めるように行為に没頭する。言葉はなく、想いは宙吊りになったまま、互いの中に咲いた欲望だけを見ていた。
足りないものを埋めるには不充分な、けれど飢えた喉を潤すに足る夜伽。
回を重ねるごとに少しずつ慣れてきた冬夜はもう呼吸が困難になることもなく、しっとりと合わさる肌の熱に目を閉じる。時折手を伸ばしてはキリエの髪を捕らえ、サラサラと流れる紫紺のそれに指を絡めては、見つめ合って微笑んだりした。
「……大丈夫?」
「ん、」
しとどに濡れた前髪を掻き上げ、キスを落とす。整わぬ荒い息に愛おしさを募らせ、キリエは回す腕に力を込めた。
あぁ、こうして抱き合っていると、ひとつになったように思える。それを快いと思う自分。これ以上を望まぬ代わりこのささやかな喜びを許してと、そっと項にくちづけた。
鼻腔を抜ける僅かな匂い。汗と色香に眩暈がする。
そんなゆるりとした空気を切るように、不意に冬夜が息を殺した。
「……っ」
「冬夜…?」
浮き上がる僅かな違和感。身を固くする様は快感に抗うというより何事かを堪える時のそれに似ている。どこかに痛みでもあるかとキリエは腕を突いて身を起こし、真上から覗き込んだ。
「どうかした?」
「な、んでも……」
辛うじて答える声が薄く掠れていることに彼の疲労を感じたキリエは、眠りを促すようにそっと後ろから抱き締めた。
「疲れたんだろう。……ごめん、無理させたね」
「そんなこと、ない、から…」
「うん。でももう遅い。寝ようか」
そう言って目を閉じて。
程なく規則正しい寝息が聞こえるまで微動だにしなかった冬夜は、己の中に湧き上がる未知の衝動をただひたすらにやり過ごしていた。
「なに、これ……」
肌が汗ばむほど、肉の匂いを強く感じるほど、喉元に噛み付きたい壮烈に駆られた。これまで何度も首筋に顔を埋め、キスをもらい、或いは自らくちびるを寄せ、交わってきたのに。こんな気持ちはこれまでなかった。こんな焦燥はこれまでなかった。こんな熱は知らない。こんな自分は知らない。
「頼む……収まれ……」
自分を抱き締め、固く目を閉じる。確かなことなど何ひとつ分からないけれど、この激情が自身でコントロール出来る範疇を超えているであろうことは本能で悟った。
「静まって……お願いだから……っ」
切なる囁き。
身動いだ腕がしっかりと回されるのを感じ、その鼓動に泣きたくなる。
月の綺麗な夜、次のステージが幕を開けた。
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自覚がないことにも本当は理由があるんですよね、という話。
ようやくフォーカスが冬夜に向いてきました。書いてて楽しい〜(^-^)
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cross #21 に続く
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