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 2007年12月 

cross #23 

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 追い駆けることも出来ず、ただ立ち尽くす。こんな時、この声もこの足も何の役にも立たないことを知った。
「キリエ……」
 何も分からない。ただ彼が出て行ったこと。自分を見て豹変したこと。その目が怒りに染まっていたこと。自分は彼を怒らせてしまったのだ。きっと、もう、戻らない。
「どうしよう……」
 心細くて堪らない。思わず口元に手をやって、冬夜はようやく己の劇的な変化に意識を向けた。
「……え?」
 両手を染める真っ赤な血。未だ熱を帯びたようにドクドクと振動する歯茎は無残に裂かれ、突き出した牙が上唇を圧迫する。恐々指先で辿った感触にヒッと息を呑む。獰猛な肉食動物のように剥き出しの犬歯は、獲物を求め彷徨う血に飢えた狼さながらだった。
「あ、あああ…っ」
 我が身の変貌にどうすることも出来ないまま、冬夜はパニックに陥る。肉体の痛みも喪失感も、未来に対する焦燥感も、彼を煽り立てるのに充分だった。
「うわぁあああ!」
 絶叫が木霊す。
 魂魄が剥がれ落ちてゆく。
 長い間彼を護ってきた頑丈な殻は遂に破られ、十字架を背負わされた跡が赤裸々に夜に晒される。密やかに閉じられてゆく空間の中、狂い始めた歯車は戻る術を持たず、猛烈なスピードで坂道を転がり落ちて行った。

 キリエ、ごめん……

 それが何に対する謝罪なのか分からないまま冬夜は意識を手放し、翌朝───。
「……っ」
 気が付くと口の周りや胸が血で真っ赤に染まっていた。
 血生臭い匂いは明らかに自分のものではなく、人間、或いは動物の他個体のものと分かる。犬歯はこれが夢だと言わんばかりに元の大きさに戻っており、これ以上を知る手掛かりは何もない。
 それでも。
「俺……」
 信じたくない。信じたくないけれど、きっと。
「吸血鬼、なんだ……」
 ポツリ、呟くと同時に涙が零れ。
 罪悪に苛まれた心は引き千切れるように痛んだ。

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偶然に出会ったふたりは必然に別れることになりました。
冬夜の自覚を通して、物語は混沌とした世界に移行します。

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cross #24 に続く