cross #26
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蘇芳は、文字通り吸血鬼に関するありとあらゆるを熟知していた。
そればかりではない。冬夜が事の顛末───つまり過去の記憶を持たないことについても順を追って話し得た。
「………うそ」
すべてを聞き終えた最初の言葉。信じられなかった。彼は自分を "始祖" だと告げた。
「本当ですよ。冬夜様は17歳の時、突然変異的に吸血鬼になったのです。当時は原因を突き止めるだけの技術も……そして余裕も、誰にもなかった」
「当時って、いつ……?」
「数百年は昔です。現代で言えば中世と呼ばれるでしょうか。住んでいるのも日本ではありませんでした。……尤も、度重なる戦争や独立で当時の国はなくなってしまいましたが……」
穏やかに語る口調が、まるで話の内容と重ならない。懐かしい思い出をあやすような表情はどこか遠く、現実離れして見えた。
「吸血鬼となったあなたは仲間を増やし、やがて勢力を拡大します。人々はあなたを恐れるようになり、人間との不文律が発生しました。彼らはあなたを殺そうとし、私達はあなたを護ろうとしました。それが長い戦いの始まりです」
まるで空中に放り出されたような感覚。不自然なまでの静けさがふたりの背負う重さを物語る。だからこそ、口を開いたのは事実究明ではなく、恐怖を誤魔化すための策とも言えた。
「仲間を増やすって……やっぱり、その、血を吸って……?」
「えぇ。それが一番多いでしょうね。または私のように吸血鬼を親に持つ子供というケースもあります。何代か人間の血で薄まれば力はなくなってしまいますが」
「吸血鬼って、死ぬの?」
「いいえ。スレイヤーによる封印以外、余程のことはない限り寿命が尽きることはありません」
嫌な予感。腹の底がしくしくと痛み始める。
「……だからさっき、俺が名づけたって……」
「はい。私は両親を吸血鬼に持ってはいますが、先天的な性質からある程度肉体が成長します。外見的には年が上とお思いでしょうが、実質的には何代か離れております」
不思議な感覚。見た目とは裏腹な事柄───否、認めたくないが事実なのかも知れない。
不安に煽られるまま見上げる瞳。
夜の光を映して紅に閃く双眸は確かに常人のそれではなく、彼の言葉を後押ししてゆく。
「蘇芳……」
名を唇に乗せ、欠けた記憶を手繰り寄せる。
剥落の月がせせら笑った。
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いよいよ冬夜の過去編です。これがあとちょっと続く予定。
リンクも張り続けておりますがのでそのへんもお楽しみに(^-^)
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cross #27 に続く
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