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 2007年12月 

cross #29 

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 言葉にすることで無意識の領域から晒された感情は、自覚した途端、焦がれ求める想いに変わった。
「……俺、寂しい。なんでかな」
 呟く声は乾いた床に転がってゆく。部屋の一点だけを見つめ続ける冬夜が現実世界にいないことは明らかで、だからこそ蘇芳はその痛々しさに目を細めた。
「人は、人と出会うことによって孤独を知るのです」
「そう……そうかも知れない」
「冬夜様」
「俺、初めてだったんだ。誰かと過ごしたのも、ずっと一緒にいたいと思ったのも。……きっと他の誰かじゃダメだったんだ。キリエだから、俺……っ」
 秘めた情熱が身体を巡る。捌け口を求めて溢れ出す。俯いた顔を上げた時、両の頬には涙の伝う跡があった。
「会いたい。俺、キリエに会いたいよ!」
「冬夜様……」
 あぁ、彼は気付いていないのだろう。それが叶わぬ恋であることも、命を狙われていることも。
 遣いの心中知らず一心に訴え掛ける姿は純粋で、だからこそ残酷だった。だがどんなに心痛んだとしても隠し通すことは出来まい。一族のため、そして始祖である冬夜のためにも蘇芳は意を決して口を開いた。
「……冬夜様、落ち着いてお聞きください」
 低い声音に不安なものを感じた少年は眉を顰める。
「彼はただの人間ではありません」
「……それ、どういう……」
 言い掛けた言葉は、ある仮説に飲み込まれた。
「まさか、キリエも吸血鬼なの?」
「いいえ」
 一縷の望みを賭けた問いは一刀両断され、代わりに。
「……彼は、スレイヤーです」
 喉元に突き付けられた刃。
「吸血鬼を封印することを生業とする者です。……もうお分かりでしょう。彼は、私達の天敵なのです」
「な…っ」
 瞠目したまま息を飲む。
 器官のヒュッという音が静かな空間を引っ掻いた。
「嘘……嘘だろ? なぁ、冗談だよな?」
「いいえ。間違うことなき、事実です」
 追い縋るのを宥め、蘇芳はただ淡々と言葉を紡ぐ。だがそれは事実を伝える以上に、冬夜を奈落の底に叩き込んだ。
「彼があなたの極近くまでやって来たのは、恐らく始祖の居場所を突き止めたからでしょう。我々の仲間が逆襲を試みましたが、止めまでは刺せなかったようです」
「……!」
 出会った時の光景を生々しく覚えている。キリエの身体から流れていた大量の血液。あの胸の傷は事故によるものではなく、自分の仲間、即ちこの血と繋がる何者かが与えたものだったのか。それはつまり、この手で彼を傷付けたにも等しい。
「なんて、ことを……」
「我々は常に命を奪うか、奪われるかです。そこに馴れ合いは存在しません」
 自責の念に駆られる始祖に厳しく進言した蘇芳は、表情を崩さずに続けた。
「冬夜様。彼はあなたが吸血鬼であることを知って出て行きました。ですが近いうち、必ず戻って来るでしょう。……あなたを、封印するために」
「キリエが、俺を……!?」
 そんなバカな。
 だが声は音にならずに消えた。

「彼は、あなたを殺しに来ます」

 それはまるで確信のように。
 受け止めきれない現実に終に冬夜は意識を手放し、蘇芳の腕に崩れ落ちる。
 瞼の裏、愛しい面影を追って───。

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愛する人を傷付けた罪、そして命を狙われる運命に翻弄される冬夜。
明日からはキリエの葛藤をお送りします。

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cross #30 に続く