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 2008年01月 

seek #18 

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 気持ちが底まで落ち込むと、光さえくすんで見えることを知る。
 立食形式のパーティだというのに結局何も口にすることなく、早々に帰り支度をする一夏を引き止めたのは氷堂だった。
「……もうお帰りですか」
 こんな時、上手いと思う。タイミングを決して外さない男のバックグラウンドを改めて痛感させられる。
「ごめん……ちょっと俺、人あたりしたみたいだから」
 だから体のいい言い訳で傍らを潜り抜けようとしたのに、つい、と差し出された腕が行く手を阻んだ。
「顔色がよくないですよ。食べずに飲んだんでしょう。───よければ、どこか静かなところに食事に行きませんか」
「うん、でも……食欲ないし……ついでに俺、金もないんだ」
 あはは、と空元気で笑ってみる。何でもいいから断りたかった。
「ご馳走しますよ。私が来て欲しくて誘ってるんですから」
「………もう」
 逃げようとする退路を次々塞ぐ。それも、確実にトドメを狙って。
 ゆっくりと息を吐き、仕方がないなと頬を緩めた。目だけはどうしても笑えなかった。
「氷堂さんてさ、女にモテるだろうね」
 あぁ、きっと唐突な物言いに呆れるだろう。これが自分だったら折角の雰囲気が興冷めだと舌打ちするかも知れない。それなのに、対峙する相手は怒るどころか黙って耳を傾けたまま、目だけで先を促した。
「なんでって思うの? ……そんなの、すぐ分かる」
 たとえば先程の女性達のように。
「凄いスマートだもん。こんな俺相手にしてくれたり、パーティに連れて来てくれたり……」
「……仕事ですから」
「うん。そう、だね……」
 声は無様に切れ切れた。喉がいつの間にかカラカラに渇いていて、咽喉を下げることも出来ない。
 仕事という答えが100%正解だと分かっているのに、ついさっき自分だってそれ以上でもそれ以下でもないと割り切ったばかりなのに、胸が痛むのを止められなかった。
 だが、真意を見誤ってはならない。一夏は頑なに唇を噛む。
「仕事、なんだからさ……その後まで気ィ遣ってくれなくていいよ」
「私が義務感で誘っていると?」
「俺が書けないからだろ? だからあんな……キ、キスとか、するんだろ?」
 BLなんて書いたこともないくせに意地になる新人教育のために。
 彼女も、もしかしたら婚約者さえいるかも知れないのに。
 考えれば考えるほど悔しくて、悲しくて、混乱した一夏は込み上げる涙を誤魔化しながらそれでも懸命に笑って見せた。
「俺、頑張るからさ……」
 これ以上手を煩わせるわけにはいかない。
 これ以上独占するわけにはいかない。
「だから、そんなに……気にしないで……」
 いいよ、と続けるはずの言葉尻は強い力によって奪われた。
「まったくあなたは……どこまで鈍感なんですか」
 抱き込まれた胸から直接聞こえる少し怒気を含んだ声。いつもの彼らしからぬ音。
 僅かな苛立ちを隠すように何度も髪を撫でる指先がひどくあたたかく思えた。
「譲りませんよ。あなたは、誰にも渡さない」
「氷堂、さん…?」
 突然のことに瞬きを繰り返していた作家は、だが、胸の棘で我に返る。
「……ダメじゃん、男の俺とか抱き締めちゃ。彼女泣くよ?」
「そう言ってるあなたの方が泣きそうですよ」
 必死に眉根を寄せるのに、溢れる雫は止まってはくれない。
「イチカ」
 名を呼ばれ、ぴくん、と肩が持ち上がる。
「イチカ……」
 正面から見つめてくる眼鏡越しの瞳は、とても優しい色をしていた。
「私に恋人なんていませんよ」
 だから安心してください、と続ける頃には唇が弓形を描く。いつもの彼をそこに映して。
「それ、どういう……」
「ふふ…。答えはあなたが知っているでしょう?」
 まるで謎掛けのように最後は煙に巻くと、担当は鮮やかにくちづけを落とした。
「……っ!」
「ご馳走様」
 お食事はまた今度、と付け加えることを忘れない。
 いつもの彼を前に、一夏は自然に笑える自分を感じていた。

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これでもまだラブコメっていうの〜〜!(ダンダン)
この段階でもまだ答えをあげないところが氷堂なんですよねぇ……。

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seek #19 に続く

seek #17 

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 華やかなシャンデリア。噎せ返るような薔薇の芳香。
 軽やかな笑い声はシャンパンの泡のように立ち上っては消えてゆく。話し相手をしてくれた琉河や時塔は瞬く間に人波に浚われ、氷堂までもその姿を隠してしまった。
 本来は交流を図るのが趣旨なんだろうけれど、どうもこの場の雰囲気は得意ではない。
 しばらく壁に凭れてグラスを空けていた一夏だったが、軽く酔いが回ったのもあり、そっと廊下へと足を向けた。
 ホテルの中でも奥まった場所にある大広間。
 さすがにそこに用がなければなかなか近付く勇気は湧かないだろうといった造りだ。それゆえにパーティメンバー以外の人間を遠退かせ、広い吹き抜けの空間を独占させていた。
 窓からは綺麗な夜景が見える。背の高い観葉植物の陰に身を滑らせると、ひんやりとした空気が心地よかった。
「……あ、薔薇の香り……」
 ふと、鼻腔を擽る誘惑のムスク。どこにいても己を惑わすそれは、まるで強引な彼のよう。
 誤魔化しを許さず、抵抗さえも掠め取る腕。耳元で囁き、首筋をなぞり上げる唇。欲望を煽り、本能を掴み出す瞳。それらひとつひとつが鮮明に思い出され、一夏は胸が高鳴るのを押さえられなかった。
「やだ、な……」
 けれど一方で、引き攣れた痛みが去来する。
 風邪で寝込んだあの日。彼の後姿を見ながら、自分は彼の恋人像を作り上げた。仕事に厳しいはずの人が全部放り出して来てくれたこと、心配してくれたことが嬉しくて、特別になった気がして、だからこそ───ブレーキが利かなくなりそうな自分を恐れた。事実を歪めたがる自分を必死に止めるもうひとりの自分が、己に楔を突き立てるために用意した恋人の存在。
 ズキン、と響く胸の痛みが一夏を現実へと引き戻した。
「分かってるよ……」
 自分は作家で彼は担当。
 それ以上でも、それ以下でもない。
「……分かってる、から……」
 意味も分からず唇を噛んだ。
 取りとめもなくこんなことを考えるのは飲み過ぎたせいだ。もう帰らなければと大きく息を吐いた時、近くの化粧室から出て来た女性達の話し声が耳に入った。
「……だよねー」
「そうそう、でしょ?」
 プランターで隠れた一夏には気付かないのか、立ち話に興じる彼女達は会場に戻る気配はない。このままでは立ち聞きになってしまうと気付いた時には出るに出られなくなっていた。
「やっぱ、ナイト出版のパーティって違うよね〜」
「BL雑誌の創刊パーティでここまでイケメンが揃ってるんだもんね〜」
「そんなこと言って、ひとりしか見てないくせに」
 揶揄われた女性は、やだーと頬を緩ませながら言葉を続ける。
「だってあんなカッコイイ担当さんだったらかなりよくない!?」
「氷堂さんでしょ? 分かるなぁ」
 その名が出るとは思わなかった一夏は、まるで自分のことのように息を殺した。
「ストイックな感じがいいよね」
「仕事もバリバリこなすしねー」
「結婚はしてないんだっけ?」
 ドキン…と心臓が跳ねる。そんなこと、考えたこともなかった。
「指輪はしてないけど、最近は敢えてしない人もいるからねぇ」
「分かんないよぉ。……まぁでも、普通に彼女はいそうじゃない?」
 やはり周囲からはそう見えるのだ。それが普通なのかも知れない。
「あーあ、アタシはいつでもオッケーなんだけどなー」
「あはは。あんたがオッケーでも氷堂さんは別問題でしょ」
「ちょっとー。どういう意味よぉ」
 全体を混ぜっ返す明るい笑い声が響き、ひとしきりの談笑の後、一団は会場へと戻って行く。その気配が完全に消えるまで待って、一夏は長い長い溜息を吐いた。
 改めて現実を突き付けられた気がした。

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すみません、予約投稿しておいたのに更新されてなかったみたいです。
たまにあるんですよねぇ……お騒がせしました(>_<)

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seek #18 に続く

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こんばんは、れんです。いろいろお知らせ〜。

えーと、まずは『seek #16』をあちこち修正しました。
話の筋は変わっていませんし、大改造ってわけではないので
既にお読みくださった方はあまりお気になさらず〜。
改めて眺めてみて、どうしても耐えられなかったところに手を入れてます。
(他のは大丈夫なのかというツッコミはノーサンキューの方向で……)

それと、普段あまりメッセージを発信しないサイトなので、
こんな時に日ごろのお礼など。
『seek』連載直後からアクセスいただく数が凄い勢いで増えてます。
特にびっくりしたのがブックマークしてくださる方の数。
日に20人以上がお気に入りから飛んできてくださっているようで、
もったいないやら嬉しいやら……画面に向かって拝んでおります。
本当に、いつもどうもありがとうございます!!

また、「BL小説バナー」のクリック数も随分増えました。
その回の内容によってもクリック数は違うので、
来てくださる方のお好みが分かって結構面白いんですよ(^-^)
数にこだわるつもりはありませんが、確実に励みになってます。
これからも、気に入っていただけたらひとつよろしくです!

ではでは、いつものとおり日付変更線を超えたら更新ですので、
また遊びに来てくださいませ♪

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