cross #32
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どこをどう通って来たかは覚えていない。気が付けば懐かしい家の前にいた。
「冬夜…」
想い人の名をそっと呼ぶ。
会いたかった。もう一度会って、本当の気持ちを確かめたかった。
失いたくないとはいえ、吸血鬼を野放しにするのはスレイヤーの存在意義を否定するだけでなく、世界を危険に晒し続けることに繋がる。リスクだけが大きく、リターンはないに等しい。それゆえにひとつ目の選択肢は、完全に情が移る前に彼を封印してしまうこと。
だが吸血鬼の封印は即ち死を意味する。どんなに不毛な恋だとしても彼を永遠に失うなど耐えられない。世界中を逃げ回ることになったとしても彼と共に生きる道を選ぶことがふたつ目のカードだった。
これまで撲滅しかなかったところに共存という概念を持ち込もうとしている。本当はどうすべきかなんて理性でとっくに分かっているはずなのに、こうも感情が邪魔をする経験をこれまでしたことがなかった。相反するベクトルに結論が出せないまま再会を果たしたキリエは、だが向かい合った瞬間、前者の選択肢が消えたことを感じた。
「冬夜」
たとえどんなに怖くても。不安でも。
この存在を失うことに比べたらどんなことでも耐えられる───。
「キ、リエ……」
薄い茶色の綺麗な瞳。それを見つめた途端、キリエは不覚にも泣きそうになった。
こんなにも愛しいのだと訴える。脳がではなく、感情が、身体が、心全部が、彼を欲しているのが分かる。
「とおや…」
そっと腕を伸ばし、引き寄せる。動揺している冬夜の身体は未だ強張ったままだったけれど、それを包み込むように抱き締め、懐かしい香りに顔を埋めた。次第に力を入れて。熱に託して。そして告げる、ありったけの想いを込めて。
「君とずっと一緒にいたい……。僕と逃げてくれるか」
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自らの意思で冬夜の元に戻り、彼への想いを選んだキリエ。
自分で書いててなんですが、ちょっとホッとしました……(T-T)
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cross #33 に続く
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