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 2008年01月 

cross あらすじ 

about story:
 孤独な吸血鬼と盲目なスレイヤー。
 惹かれ合うふたりを阻む残酷な運命は
 やがて互いの命さえも要求する。
 共に在るための最良の方法とは───。


about main characters:
 ■キリエ kyrie
  吸血鬼撲滅を生きる目的にしている孤独な少年。
  誰にも心を許すことがなかったが、冬夜と出会い少しずつ変わってゆく。

 ■冬夜 シン sin toya
  スレイヤーから身を守るため、己の記憶や力を封印されて育った。
  偶然キリエを助け、共に暮らすうちに、彼を必要と感じ始める。

cross #01 に続く

cross #36 

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 どのくらいそうしていただろう。相手を宥めることだけに必死だったキリエはふと、自らを省みて口を開いた。
「僕の名は……祈りの言葉だ」
「え…?」
「"キリエ" はギリシア語で、"主よ"」
 思い掛けない言葉に冬夜はただじっと相手を見上げている。月明かりを受けキラキラと輝く紫紺の髪。その姿は遠い昔人々を苦しみから救った神の子のように思えた。
「本当の名前はキリエ・エレイソン(Kyrie eleison)─── "主よ、憐れみたまえ" という意味だよ」
 それは憐れみの賛歌と呼ばれ、キリスト教礼拝の最も重要な礼拝のひとつとされている。人々の切実たる願いが込められた箇所を聖書に見ることが出来た。
「この名前は母が付けた。このペンダントと一緒に僕に贈ってくれたものだ」
 そう言って胸元のロケットを掲げて見せ、自らに与えられた重みを背負い直す。
 きっと歳若い母親は祈りを込めたに違いない───スレイヤーとしての運命を歩ませるこの子に、どうか主よ、憐れみたまえと。
「これまでずっと神なんて信じなかったのに、こんな時だけ祈りたくなる」
「キリエ…」
 数奇な運命を辿ったふたりに。
 生きてる限り結ばれぬ宿命に。
 でも、と前置きした祈りの主は、柔らかに目を細めて言葉を続けた。それはすべてを受け入れ、赦す者の表情をしていた。
「……不思議だね。君が吸血鬼で僕がスレイヤーでなければ、僕等は出会うことはなかった」
 ならばこの運命に感謝しなければならないと続けるキリエに、だが冬夜は首を振る。今なお打開策の見付からない、或いは見出されていたとしても怖くて直視したくない現実に混乱したまま、ただ闇雲に怯えていた。
「なんで? どうして俺達出会っちゃったの?」
「……どうしてそんなことを言うの?」
「だって、会わなければ片方死ぬことなんてなかったのに」
「その代わり、こんなに君を愛することもなかった。そして君に愛されることもなかったよ。……違うかい」
 そっと頬に指を沿わせて。つぶらな瞳から零れ落ちるたくさんの涙を掬い取って。
「愛してるんだ、冬夜」
「キリエ…」
 また新たな雫が生まれるのを愛しく見遣って。
「君に会うために、僕は生まれてきたのかも知れない」
 いつか会うためスレイヤーとなり、対峙出来るだけの力を身に付けて。
「ずっと君を探していた。君に会いたかったよ」
 最初はターゲットとして。今はパートナーとして。
「運命だったんだ。君と、僕は」
 だからこの出会いを間違いだなんて言わないで。
 この想いを否定しないで。この願いを諦めないで。
「冬夜、君がもし同じ気持ちでいてくれるなら……」
 それがどんなに怖いかは分かっている。重荷は君の分まで僕が背負うから、だからどうか聞き入れて。
「自分達のこの手で、メビウスの輪を絶ち切ろう」
 どちらも失うことなく、永遠に手に入れるために───。

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キリエのこの告白が書きたくて『cross』の連載を決意したと言っても
もはや過言ではありません。はー、やり遂げた……!
残り数話となりましたが、最後までお付き合いくださいませ。

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cross #37 に続く