cross #37
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すべてを悟った冬夜は全身の血が凍り付くのを感じた。
目を見開いたまま微動だにしない。これは取り得ないと一度捨てたはずの選択肢すら這い蹲って掻き集めてしまうほど、残されたひとつは残酷なカード。現実は容赦なくその心を切り刻んだ。
冬夜は始祖として "覚醒" を果たし、スレイヤーであるキリエと対峙している。
キリエが冬夜を封印すれば一族を一網打尽にすることが出来る反面、その身体に半分流れている吸血鬼の血が自らの存続をも危うくする。一方、冬夜がキリエの血を啜れば彼の人間としての生を奪うが、その代わり永遠の魂を手に入れられる。共に死ぬか、共に生きるか───答えは初めから出ていた。キリエに従うしかなかった。
「怖がらないで……」
小刻みに震える背中を何度も何度も撫で下ろし、キリエは囁く。まるで優しい子守唄のように。
「大丈夫だよ。……ホラ、口を開けて?」
「ダ、ダメだ。やっぱり、俺…っ」
犬歯に触れられた途端顔を背ける。もはや本能でさえ押し殺そうとする姿にスレイヤーは目を細める。それだけ自分を想ってくれているのかと思うと、こんな場面でさえ胸が一杯になった。
「……冬夜。僕を信じて」
震える指先を握り締めて。
「僕の魂を、一度君に預ける」
戦慄く唇をそっと塞いで。
「大丈夫。必ず返してもらいに行くから、心配いらない」
にっこり笑って。極上の笑みで笑って。
それは無理でも強がりでもないと分かるからこそ、ギリギリのところで懸命に踏み止まっていた冬夜は白旗を振るより他になかった。
ギュッと目を閉じて、溢れる涙をやり過ごして、始祖はそっと牙を寄せる。つ…、と一滴首筋に伝う、この世で最も愛しい人の血。見る見る流れ落ちるそれを飲み下す頃、キリエは身体がすっと冷たくなってゆくのを感じた。
ガクン、と膝が崩れるのを合図に冬夜は我に返り、目の前の光景に口を覆う。
「あ、あ…ぁ……」
掌、真っ赤に染まる色にまたも震え出すのをキリエは見上げながら、安心させるように最後の力を振り絞って笑った。
「冬夜、心配しないで。すぐ目を覚ますから」
「……ごめん。キリエ、ごめん……っ」
「なんで泣くんだ。僕は……嬉しいのに……」
そう言って微笑むから、冬夜はもう前も見えない。
「僕達が未来永劫、共にありますように…………」
まるで歌うように。
まるで眠るように。
彼が逝った。
この手に掛かって。
「……キリエ───!」
残響だけが響き渡る。
魂の安らぎがあるのなら、どうか主よ、憐れみたまえ───。
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遂にこのシーンが来ました……覚悟しててもやっぱり怖かった。
吸血鬼として復活するか本当は保障がないのに、それを冬夜に言わず
実行させたのは、やはり彼だけでも助かってほしかったのだろうな、と。
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cross #38 に続く
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