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 2008年01月 

cross #39 

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 ふたりを驚かせたのはそれだけではない。
「な、なぁ。あの窓、映ってんのって……俺?」
 そっと袖口を掴むようにして擦り寄ってくる眼差しの先、月光を受けた窓ガラスに反射する彼の姿があった。
「……冬夜? 嘘だよね?」
「お、俺に聞くなよ。俺だって分かんな……うわっ」
「冬夜! 凄い! こんなことってあるのか!」
「ちょ、おま、く、苦しい……っ」
 ガバッと視界を覆い尽くす両腕にもがき、何とか酸素を求めて顔を出す。未だ興奮冷めやらぬといった風に頬を上気させた彼はふと、自分の胸元に手をやった。
「そうだ。これを……」
 そう言って首に掛けていたロケットを外す。隠し蓋の裏、鏡面になっている方を冬夜に向けたキリエは、未だ驚きを隠し切れない吸血鬼相手にしみじみと目を細めて見せた。
「……姿が映るようになったんだね」
「俺…?」
「そうだよ、冬夜。君はもう吸血鬼じゃない。長い長い生から開放される時が来たんだよ」
 これまでは他人の心を惑わす悪しき者として鏡に映らない存在だった。けれど今、こうして鏡に映る自分を確かめることが出来る。こんなにもハッキリと、あぁ、まるで夢のよう。
「でも、どうして……」
 疑問にキリエは少し小首を傾げて見せた。
「恐らく、僕の血を吸ったからだろう。スレイヤーのエネルギーを内に取り込めば、確かに吸血鬼としての力が抑えられてしまうのは納得がいく。……君は突然変異的に吸血鬼になったと言ったね、生まれた時は人間だったと。だから、君から吸血鬼の力がなくなって、元に戻ったってことだと思うよ」
「そっか…。でも、それって上手くいき過ぎじゃないの?」
「まぁね。……尤も、僕も詳しいことは分からない。こんなことは初めてだから」
 推測の域を出ない変化をより確固たるものにはどうすればいいか……。逡巡したキリエは、やがて己の言葉にヒントを見つけ出した。スレイヤーのエネルギーが彼の中に取り込まれたのが本当だとしたら、自分がそれを試すことで証明出来る。
「それちょっと貸してくれる?」
「あ、あぁ…」
 冬夜からロケットを受け取ると、右手の掌をそっと翳す。吸血鬼封印のたびに結んできた印。その形に手を組み、精神を集中させても、これまでのように掌が温かくなることも、光が零れることもなかった。ロケットはそのままそこにあり、一切の変化を見せなかった。
「……凄い。スレイヤーの力がなくなってる」
「嘘っ。……えーと、その、ごめん」
「あはは。なんで君が謝るんだ」
 苦笑すると困ったように見上げる瞳と目が合って。
「始祖の力を抑えるには僕の全部が必要だったんだね。役に立てて嬉しいよ、冬夜」
 前髪を掻き上げ、形のよい額に唇を寄せる。自分の命も、自分の力も、そのありったけで彼を助けられたことを素直に嬉しいと思った。
「でも、どうする? この先他の吸血鬼が出たら……」
「あぁ、恐らくそれは大丈夫だろう。一族は始祖と一蓮托生だ。君の力がなくなったのと同時に、皆一様に失効しているだろう」
「そっか……」
 無益な争いも無情な殺生も二度と繰り返されずに済む。そのことが冬夜の心を軽くし、キリエの過去を弔っていた。

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スレイヤーの力を取り込んで人間となった冬夜。
始祖ってこういうことだよね、というまとめの回。

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cross #40 に続く