seek #01
冷たい風が襟元を掠めて過ぎる。
正月も空けて幾日か経ったというのに未だおめでたい気配など微塵もなく、吹き荒ぶ木枯らしに身を縮こまらせている青年は、どんよりとした灰色の空を仰ぎながら長い長い溜息を吐いた。
月丘一夏(つきおか ちか)は若干21歳にして、筆で生計を立てていこうと野望を燃やしている。───とまでは本人もハッキリ自覚していないものの、作家になりたいという思いは強くあった。
ライトノベルというジャンルに出会って数年。
肩肘張らないながらも奥深い。これでいこうと決めた。
苦労して入ったことなどすっかり忘れた大学生活に見切りをつけ、ついでに就職活動も放棄して、一夏は原稿執筆に明け暮れる。自分の中で世界が広がっていくのが楽しくて仕方なかった。
彼のやる気を奮い立たせていたのはそれだけではない。
過去の投稿作品が編集者の目に留まり、専属の担当者が付いたというのも大きかった。何度か作品を見てもらうことで、ゆくゆくは念願のデビューが果たせれば、と思っていた。の、だが。
光るものはあるんですがねぇ……。
担当者である斉藤からの電話、第一声でまたも夢が遠退いたことを知り、こうして気晴らしに散歩に出れば逆に寒風吹きっ晒しの刑に遭う始末。
「あーあ」
今回のは自信あったんだけどな……。
そんな独白を風が奪う。
「うわ、寒ィ」
難を逃れるように慌てて駆け込んだいつもの本屋。
落ち着くまでぐるりと壁を一周していた目に飛び込んできたのは派手な表紙の雑誌だった。
ふたりの美少年が仲睦まじく、というか、くっつき過ぎというか、もうちょっとでキス出来そうです、という距離で微笑んでいるイラストに目が釘付けになる。ひとりの手がもう片方の腰に絡み付き、この後の目くるめく展開を予測させていた。
……これはその、ボーイズラブってヤツ?
見たものを理解するのに精一杯で、一夏は、この歳の男性がBLコーナーに張り付いていること自体の不自然さにまで頭が回らない。たくさんの表紙達を覗き込みながら、凄いものもあるもんだな、なんて呑気な感想と共に異世界の産物を観察していた。
その後、自分が関わることになろうとは夢にも思わずに。
運命だけがひたひたとカウントダウンを始めていた。
人生、何が起こるか分からない───。
その言葉が立証されたのはそれから1週間後、斉藤の電話によってもたらされた。
「今度、ウチで新しい雑誌を立ち上げるんですよ」
電話口の彼は珍しくウキウキとした声で普段の温厚さを隠している。些か押しの弱いところがある温和な印象さえ見事に覆していた。
「月丘さん、そこで書いてみませんか」
「……い、いいんですか?」
真っ先に飛び出したのはそんなセリフ。
だっていくらなんでも運が良過ぎる。
「えぇ。これまでとちょっと違うジャンルだけど、新しい方向性が見えるかも知れないし」
その言葉の裏に、彼の担当としての期待と優しさを垣間見る。
だからこそ、振って沸いたラッキーに一夏は一も二もなく飛びついた。
「や、やります。やります! やらせてください!」
そうして慌しく打ち合わせを取り付け、電話を切って。
「やったー!」
部屋でひとりガッツポーズを決める。
下積みという名の長い冬が終わろうとしていた。
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さて、始まりました新連載。とんだイロモノで申し訳ない<(_ _)>
文章の書き方が固まってきちゃったので、それを壊してみよう計画です。
当たって砕けて飛び散るまで頑張りますので、見捨てないでくださいね〜〜。
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seek #02 に続く
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