seek #05
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気をつけろ 甘い言葉と 出版社───。
つい一句詠んでしまうほどには動揺したとしても許容範囲だろう。なにせ目の前のこの人はボーイズラブと宣った。
「俺男ですけど!?」
「おや、先程の言葉は虚勢ですか」
「い、いえ、そういうわけじゃ……」
ありませんとも滅相もない。先行き超不透明なだけで。
未だ要領を得ない一夏とは対照的に、口元に手を当てた氷堂は、そういえば、と独白した。
「月丘さん、お名前を伺っても……?」
「一夏です」
「……なるほど」
軽い溜息ついで、足を組み替えつつ苦笑する。
「斉藤はあなたを女性だと勘違いしていたのでしょう」
「まさか」
「あまり男性で『ちか』という名前は聞きませんからね」
「いや、そう言われればそうですけど……」
曖昧に返しながらもその実心中穏やかではない。
単に字面がカッコいいという理由で後先考えずに命名した両親を恨み、電話で声を聞いたにもかかわらずずっと自分を女性だと思っていたという担当者を呪った。
「まぁ、それはキッカケに過ぎない。あなたにとってはラッキーかも知れませんよ」
椅子から立ち上がり、ゆっくりと歩み寄る。
氷堂に見つめられた途端、蛇に睨まれた蛙のように微動だに出来なくなっていた。
「……どうされますか。やるからには徹底的にプロの仕事をしていただきますが」
ごくり。喉が鳴る。
この際勘違いでも棚ぼたでもなんでもいい。幸運の女神を振り向かせたい。
「望むところです」
キッパリと言い切った一夏を見下ろし、彼が極上の笑みを浮かべてみせた。
「……ただ書くだけじゃつまりませんねぇ。売れないと」
新人相手にそこまで言うか!?
ぐっ、と詰まったのを跳ね返すように睨み付け。今に見てろと己に誓って。
「分かったよ! やってやる!」
「ふふ…。そうこなくては」
それはたとえて言うならカンタレラ。
どこか吸い込まれそうな笑顔が常習性の毒を思わせた。
「では、私があなたを担当します。斉藤は当分帰って来れないでしょうからね」
そう言って差し出された一枚の名刺。
『氷堂恭一(ひどう きょういち)』の文字が脳裏に焼き付いた瞬間だった。
───負けない。この人にだけは。
「あんたを、驚かせてやる」
「その言葉、お忘れなく」
鮮やかなウィンクで締め括られた契約の儀。
喉奥の楽し気な笑いとは裏腹に、こうして一夏の苦悩が幕を開けた。
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売り言葉に買い言葉的なBLデビューおめでとうの回〜(笑)
ちなみに氷堂サンの名前は「極悪"非道"」の当て字です(うわ)
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seek #06 に続く
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