message(企画:『暦』4月-2)
seek #07
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どうやって話がまとまったのか未だ理解出来ない。
もはや流れに身を任せるのもやっとなほど疲労困憊の一夏は、先に立って歩く氷堂の背中ばかり見ていた。
一体何をどうやったらBL誌に連載することになるのか。
男だと分かった時点で追い返してもいいものを───特に斉藤の一件があったのだから、口実になったはずなのに、むしろ強力なバックアップがあったのは何故なのだろう……。
その時。
「い…ったぁ……」
唐突に立ち止まった背に思い切り激突する。
「まったく、何してるんですか」
「それはこっちのセリフだろ! 急に立ち止まんないでよ」
「休憩でも、と思ったんですが……不要でしたか?」
指し示したのはレストコーナー。
一も二もなく一角を陣取る一夏に苦笑を漏らしつつ、担当はコーヒーを差し出した。
「生憎専門店ほどの味は期待出来ませんが」
「うぅん。ありがとう」
鼻腔を擽る芳香にゆったりと目を閉じる。
大きく息を吐いて、ひとくち口に含んだところで、一夏は自分を見つめる視線に気付き顔を上げた。
「……な、なに? 何か付いてる?」
目と鼻の先、思わず赤面してしまうほどの距離に美男子のアップ。
「ていうか氷堂さん、その、近くない?」
「すみません、目が悪いもので」
なおも身を寄せてくる相手とは、今やぴったりと隙間がない。
「……クックッ。本当に……純粋な人ですね」
口元に手を当てつつ、私眼鏡掛けているでしょうが、と続ける。
「揶揄った!?」
「緊張が解けたんじゃないですか」
どこがだよ、と続けようとした言葉はけれど、相手の一言によって引き止められた。
「顔が赤いですよ、"月丘先生"」
「……へっ!?」
間髪入れず上がった声はみっともないほどひっくり返った。
「あぁ、耳まで真っ赤だ。本当にかわいい人ですね」
「な、な、な、」
ドギマギしたまま二の句を告げない一夏にくすくす笑いながら、担当者は更に悪乗りする。
「さて、連載の打ち合わせしましょうか。月丘先生」
───教訓。
美丈夫の笑みは万人を黙らせる。
見事反撃の機会を失った作家は押し黙るのみで、終始氷堂ペースでのスケジューリングが行われ。もうどうにでもしてよと半ば投げやりに見ていたところ、本当に鬼のような予定を組まれ泣くことも出来ない。
更には掲載作品についても指示が飛び、一夏は既に飽和の一歩手前に追い込まれていた。ネーム前にある程度の方向性を固めようというのか、BLイコール未開の地という作家に対し、これでもか、と知識が伝授された。
とりあえず、雑誌に作品が載るまでには恐ろしく長い道のりがあるのだということは分かった。
あと、攻めと受け。……なんだかなぁ。
「まぁ、最初はこんな感じで」
ようやく開放された頃にはすっかり魂が抜けている。
けれどそんなことはお構いなしに、氷堂はにっこりと笑ってみせた。
「リアルな白昼夢を期待していますよ」
「……え?」
どういう意味だ、と問うはずの口は、けれど動くことがなかった。
唐突に視界を覆う影。漆黒の髪。
それが何かを思い起こす間もなく、唇に感じるあたたかさ。
感触を確かめるようにした唇を吸われ、背筋に電流が走った。そっと差し入れられた舌が歯列を割り、自身のそれを探り当てる頃にはすっかり力が抜け切り、なす術もない。
「ふ、ぁ……っ」
頭が真っ白になる。
体がフワフワする。
力が入らなくて、抵抗も出来なくて、鳥肌ばかり立って、そして───。
「……おっと」
カクン、と膝が崩れたのを合図に氷堂の胸に抱き込まれた。
腕の中の相手が焦点すら定まっていないことなど何のその、容赦ない担当は何食わぬ顔で感想さえも求めてくる。
「どうでしたか」
「……ど、ど、ど、どうって……!?」
ふふふ…と続く含み笑いが恐ろしい。
「あなたは、育て甲斐がありそうだ」
「…………!」
長い指が顎を浚う。
身を竦める間もなく奪われたキスに一夏は今度こそ声も出ない。
「これを忘れずに、作品に活かしてくださいね」
そうして綺麗な笑顔が締め括る頃。
許容量を超えた一夏は遂にブラックアウトへ一直線。
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いよいよ"先生"呼びです。攻受逆だから萌えるという不思議方程式。
攻め様はキス上手という黄金法則も覚えておきたいポイントです(笑)
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seek #08 に続く
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