Monthly archives

 2008年01月 

seek #08 

←前話へ

 抜け殻となった件の作家がフラフラと出版社を後にする頃、氷堂は再び編集長室を訪れていた。
「いやー、びっくりしたな。まさか大学生の男のコとはね」
 そんな時塔の第一声。……無理もない。氷堂とてそう思ったクチだ。
「いくらデビュー出来るとはいえ、さすがに断ると思ったんだがな」
「……負けず嫌いだろ、あのコ」
「そこが面白そうだ」
 ククッと笑う横顔がいつになく楽しそうで、付き合いの長い者としては放っておけない。というか、早い話、ちょっかいを出したくて仕方ないのだ。
「……俺、つついてみようかな」
 だから悪戯心を仄めかせば。
「悪いが譲る気はない」
 一刀両断に捻じ伏せられる。相当な入れ込みようである。
「珍しいじゃん、おまえが気に掛けるなんて」
「さぁな」
 これまでも無名の作家を拾って来てはヒット作を連発するという、尋常ではない嗅覚を持つ編集者。ダイヤの原石を見付けることにかけては右に出る者なしとお墨付きを与えたほどだ。その彼が、無名どころかデビューすらしていない男子学生を、しかもBLを書くために連れてきたというのだから、これ以上のニュースはなかった。
 ───とはいえ。
 ダイヤを手に入れるということは、磨き上げるということで。
 多数の作家を抱える氷堂に対し、これ以上業務を割り振ることに上司として懸念がないわけではない。無論、仕事を疎かにするような男でないことは分かっているが、腐れ縁同士、互いの性格などよく分かっている───彼が、無理しがちだということも。
「大丈夫なのか、新人君の面倒見係まで引き受けて……。他に何人も抱えてるだろ」
 軽く諌めたところで、聞く耳を持つヤツではないということもまた、熟知しているのだけれど。
 案の定、唇を引き上げた氷堂は艶やかに笑って見せた。
「問題ないさ」
「おお、強気。さすが敏腕編集者」
「褒めても何も出ないぞ」
「いいよ、おまえが身体壊さなきゃ。ウチの売り上げ賭かってんだから」
「そういうことか」
 顔を見合わせてくすりと笑う。
「それより焦点はBLだなー。イチカちゃんってノンケなのにさ、よく書く気になったもんだ」
「…………相変わらず、会っただけで相手の性癖まで見抜くのもどうかと思うぞ、雅矢」
「やだなぁ、特技って言ってよ。……それより氷堂、どうすんの?」
「作家を育てるのが担当の役目だろう」
 そして醍醐味とも言う。特に、今回の場合は。
「ふふふ……イチカちゃんはどれくらい変身するのかな」
 楽しそうに目を細めて笑う時塔に向かって、氷堂はウィンクで返して見せた。
 すべてにおいて想像以上を狙っている。
「乞うご期待、というところだ」
 こうして伝説の1ページ目が幕を開けた。

----------
一筋縄ではいかない編集長と鬼畜敏腕な編集者。
このコンビが既に BLっぽい?と思いつつ、
どっちが攻めかで血を見そうなのでそっと目を逸らしておきます……。

お気に召しましたら「BL小説」バナー↓をクリックしていただけると嬉しいです♪

seek #09 に続く