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 2008年01月 

seek #09 

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 一方、その頃の一夏といえば、あまりの出来事に脳がクラッシュを起こしていた。
 鬼のような担当から言い付けられた通り連載のネタを練るものの、考えれば考えるほど浮かんでくるのは氷堂の顔ばかり。切れ長の目がじっと自分を見つめていた。
 撫で付けた黒髪、眼鏡越しの瞳。
 すい、と細められた双眸は光を宿し、薄く開いた唇がこの身を溶かすべく熱を煽る。 
 ゆっくり、ゆっくりと。近付き、触れ合い、感じ合い、求め合う、そのすべてに浮かされてゆく。
「だーっ!」
 顔を真っ赤にして一夏は今しがたの白昼夢を掻き消した。両手でバタバタともがいているのは、彼なりの照れ隠しである。
「男にキスって……!」
 しかも2回も。
 自分で思い出しておいて撃沈する。それは相手に対して隙を見せたからではない───悔しくも、彼のテクニックに感じてしまったせいだ。
「有り得ない! 有り得ないだろ俺!?」
 何が悲しくて年上の男に唇を奪われ、いいようにされて、あまつさえ腰砕けになったというのか。いくら経験が豊富でも、立場的なものがあっても、あそこで完敗を喫するとはこの先が思い遣られる。
「……でもなぁ、上手かったんだよね……」
 あの巧みな舌使い、只者ではない。
 下唇を食み、そっと歯を立て、驚いた隙に舌がするりと歯列を割る。口内を蹂躙し、内肉を舐め上げ、舌を絡め、吸い上げる。僅かな水音と、それを縫うような息遣いが身体の芯を痺れさせる。長い指が頬を辿るのも、顎を押さえられるのさえゾクゾクした。
 そして何より、あの支配的な眼差しが───
「うわぁっ !!!」
 唐突に鳴り出した携帯電話。
「勘弁しろよ〜〜!」
 心臓が止まるかと思った。
 だが、恐る恐る出てみれば相手は意中の編集者。
「ふふふ。私のことを考えていたんですか」
「………うそっ」
 まるで見透かしたかのように笑う声に、一夏は顔が火照るのを自覚する。キスシーンのリプレイばかり想像していた恥ずかしさと、それを言い当てられた動揺で、もはやマトモに話すことなど出来なかった。
 その上電話越しに響く声は実際より少し低く掠れていて、耳元で囁かれているような、耳から犯されているような、そんな危うい気持ちにさせる。正気を保つ自信はとうになかった。
「月丘先生?」
「……え? あ…は、はい」
 あぁ、頼むから、その声を吹き込まないで欲しい。
「初めのうちは慣れる意味でも、何度か打ち合わせをした方がいいと思っています」
 確かに声は聞こえているのに、意味を理解するのが追い付かなくなる。
「よろしければ、お食事がてらいかがですか。その方が緊張しなくていいでしょう?」
「……は、はい」
 辛うじて返した声はやっぱりどこか上擦っていて、悔しいけれど全部丸分かりなんだろう。けれど取り繕っている余裕など、一夏には残されていなかった。
「……じゃあ、明日の夜19時に」
 そう言って電話が切れた頃、ようやくハッと我に返る。
 通話終了の画面を見下ろして、ふと。
「明日ぁ!?」
 心の準備は制限時間 24時間。

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氷堂と書いて「とことん追い込む」と読むみたいです(笑)
でも一夏ちゃん、実は素質アリアリな感じがしてきましたよ…あれ。

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seek #10 に続く