seek #10
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約束の日。
待ち合わせ場所からエスコートされるまま連れて行かれた先は何故かフレンチレストランで。眉を顰める暇もなく案内された席がまた個室というのだから周到過ぎる。
「……作家と担当の打ち合わせって、いつもこんな高級料理屋でやるんですか」
「まさか」
訝る視線はウィンクで一蹴し、ウェイターが目を離した隙に氷堂はそっと手を伸ばした。
「お互いをよく知るための最短ルートは、おいしい食事と……」
そのまま手の甲にくちづけて。
「雰囲気です」
にっこりと笑ってみせた。
極自然な仕草に怒るのも忘れてポカンと口を開けていた一夏は、だがじわじわと迫り上がる羞恥心にとうとう頬を朱に染めた。
「ちょ、ちょっとあんた! 普通男にこんなことするかよ!」
「それを書くのがあなたの役目でしょう」
実にサラッと言ってくれたりするもんだから、それ以上かわしようもなく。
「そうだけど! そうだけどでも!」
「いやなら断ってくださっても結構ですよ。意地でも書くと言ったのはあなたですけど」
「書くよ! 書くって! ぜってー誰にも譲らねぇからな!」
「そうですか。頼もしいですね」
売り言葉に買い言葉でますます深みに嵌るとも知らず、目下氷堂の作戦は成功である。
興奮して立ち上がった作家を宥め、ようやく席に座らせると、見計らったようなタイミングでウェイターがワインをサーブしに来る。氷堂がテイスティングをしている間当然一夏は黙るしかなく、文句のひとつも言ってやろうと思っていた事柄はすべて腹に収めるしかなかった。
だが、苛々とするのも食べるまで。
氷堂が"おいしい食事"と銘するだけあって、磨き抜かれた技の共演は腹を満たし心を満たす。普段の侘しい食生活とは大違いである。すっかり脱力した一夏は、これが打ち合わせであることも半ば忘れ、酒の力も借りて目の前の取っ付き難い男とも会話を楽しむまでに至った。
「ところで───」
メインディッシュのプレートが下げられたのを見計らって、氷堂は再び担当としての顔を取り戻す。
「最初にお伝えしておきますが、私はオブラートに包んだ物言いが嫌いです。作家にも作品にも言いたいことはハッキリ言います。多少キツイと思いますが、嘘だけは言いません。お世辞も苦手ですしね」
「……あぁ、分かる。そんな感じがするなー」
「どういう意味ですか」
「いいんじゃない? 曖昧に誤魔化されるより白黒つける方が俺も好きだし」
「それはよかった」
軽く頬を持ち上げると、では、と前置きして氷堂は言葉を続けた。
「『seek』でBL小説を連載するにあたり、あなたに足りないのは知名度と実体験です。……前者は複数の連載を持って、単行本を出せばおのずと結果として付いてくるものなのでご心配なく。売れれば他メディアへの展開も期待出来ますし」
「他メディア…?」
「差し当たってはドラマCDでしょうかね。その後は漫画化、アニメ化、映画化、ドラマ化……」
「ちょちょちょ! そのへんは売れてからで……!」
「あぁ、その前に連載してから……というより、まずは書いてからですね」
満面の笑みで容赦なく叩き落す、この技は思った以上に効果覿面。
「まぁ、そのへんは私に任せてくださって大丈夫です」
そう言って語られた氷堂の経歴たるや並ではない。無名から大御所に上り詰めた作家陣の名前が山積している。
「やっぱ作家を活かすも殺すのも担当なんだ……」
「そうでもないですよ。筆力が乏しければどんなに頑張っても読者は付いてきません」
「でも俺、BLなんて書いたことないし……」
「ジャンル独自の約束事は私がチェックすれば済む話です。恐らく10回はリテイクが掛かるでしょうけど」
「あんた鬼!?」
「おや、殺されたいですか?」
「それこそ鬼かよ!」
ギャーギャー喚く一夏を面白そうに見遣りながら、氷堂は涼しい顔でワイングラスを傾けた。
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初デートは個室フレンチw やはり大人の男は外しませんね!
飴と鞭も使い分けているあたり、敏腕担当と言われる由縁なのかも(笑)
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seek #11 に続く
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