seek #15
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コレどうすりゃいいんだよ───!!?
氷堂に勧められた創刊パーティ。
特に気負いもせず、ちょっと顔を出す程度の気持ちで会場に到着した一夏は、あまりに予想外の事態に独白すら出来ないでいた。
お祝い事に花輪は定番。こうした会社上げての祝賀会なら尚更だ。
だが、そのすべてが真紅の薔薇で統一されている光景など見たことがない。送り主達の趣味というよりは、主催者側の希望───とどのつまり、編集長によるリクエストなのだと分かる。そしてこのパーティがBL雑誌の創刊を祝うものだということからも、期待の大きさだけではなく、ジャンルの方向性までも示しているようで一夏はそっと目を逸らした。
「薔薇って……!」
そういう意味かよ、と思っても当然声に出してはいけない。
そんなこんなでのっけから気圧されつつ、意を決して会場に足を踏み入れた新人作家は、だが数歩と歩まず回れ右して帰りたくなった。
女性、女性、女性。
会場の大半を占める若い女性達の華やかな雰囲気は一種強力なバリケードである。BLというジャンル柄男性が少ないことは重々承知していたが、こうも同世代の異性に囲まれ、更には含みのある眼差しで見詰められるなんて耐えられない。
「これじゃただの羞恥プレイじゃんっ」
周囲に聞こえない小声で毒付きながら、一夏はジリジリと壁に沿って進む。無論、出口に向かって、である
「だいたい氷堂さんどこなわけ!?」
来いって言ったんだったらせめて盾になるとかしてよ。俺針の筵状態で、ホラ、あのお姉さんたらうっとりした目でこっち見てる。絶対俺で妄想してる。なんでこんな目に遭うんだよ。もう助けて……。
半泣きで会場中を見回していたその時、飲み物を携えた担当が絶好のタイミングで現れた。
「あぁ、月丘先生、いいところに」
「悪いけど俺帰るわ」
開口一番踵を返す。
だが、最初からそれを見透かしていたのかはたまた勘か、空いた片手で一夏の肩を引き寄せると、これ見よがしに顔を寄せた。
「イキナリそれはないでしょう」
どこからか上がる黄色い声。突き刺さるような無数の視線。帰りたい……。
「それに、まだ編集長の挨拶だって終わってませんよ」
その名を出されると一夏とて強くは言えなかった。なにせご恩のあるお方、逆らうわけにはいかないのである。
むぅ、と唇を尖らす作家にくすくすと笑いを漏らす彼の人は、ふと目を上げ、明るい口調で一夏を呼んだ。
「それより件の男性を紹介しますよ」
「……え?」
氷堂が目を向けた先、そこだけスポットライトを浴びたようにオーラを放つ男性が立っている。
整った目鼻立ち、線の細い柔らかな肢体。長めの髪を掻き上げる仕草はどこか儚な気で、影のある美少年といった趣に一夏は驚きを隠せなかった。
一目で他者と違うと思わせる、これは彼の持つカリスマ性だろうか。穏やかに談笑する高めの声に無意識にごくりと喉を鳴らし……傍らの氷堂に苦笑された。
「まさかとは思うけど、あの人……?」
「えぇ。そのまさかです」
氷堂が手を上げると、既に話は通っていたのか、彼が人混みを掻き分けてこちらへとやって来る。
「こんばんは、氷堂さん」
「本日はご足労いただきありがとうございます、琉河先生」
「いえいえ。こちらこそ、お招きいただきまして」
ふたりが挨拶をする間、陰に隠れて右往左往していた一夏を前に引っ張り出し、氷堂がふたりを引き合わせた。
「は、はじめまして。月丘です」
「はじめまして。お話は氷堂さんからいろいろと。……琉河です」
にっこり笑いながら手渡された名刺には "琉河真之介"の文字。こんな綺麗な人がそんな古風な名前なのかと思うと不思議な感じがした。
「琉河先生は、BL界では "耽美派の帝王" と呼ばれているんですよ」
「もう、氷堂さんてば。嘘情報刷り込まないでよ」
イキナリの帝王情報に仰け反る一夏を余所に、当の本人はカラカラと笑って受け流している。これくらいでなければBL作家はやっていけないのかも知れない。
「ご謙遜を……。引く手数多の琉河先生に書いていただけるだけで、あちこち自慢したいくらいですから」
「そう言っていただけると嬉しいけど。……あ、月丘先生、先生は今回デビューなんですってね」
「え? 俺?……あ、はい」
唐突な振りは勘弁してもらいたい。踏んだ場数など雲泥の差の一夏は受け流すどころか、声が引っくり返って赤面するのがオチだった。
「先生の連載、楽しみにしてますね」
「……わっ、えと、その、はいっ」
あぁ、頼むからそんなに距離を詰めないで。氷堂といい、看板作家といい、どうしてこう揃いも揃って美丈夫で、そのうえ近付きたがるのか。
「ふふ。かわいらしい方ですね。氷堂さんのお気に入りなんでしょう」
「そうですよ」
「……!」
そこ否定するところだろう!という声は気恥ずかしさに掻き消され。
「初々しい感じがね、とってもいいですよ。食べちゃいたいくらい」
「へ!!???」
何言ってんのこの人!という叫びは驚愕のうちに飲み込まれた。
目を白黒させる一夏を見遣り、無情にも氷堂は噴出すのを必死に堪えようと肩を震わせている。アウェー感漂う中、ひとりマイペースを崩さない琉河はウキウキとした声で話を続けた。ある意味無敵である。
「うーん、いいなぁ。……ね、この後ウチに遊びに来ませんか?」
「はい!?」
「……琉河先生。〆切3つあるとお聞きしてますけど?」
のっぴきならない状況になりつつあると悟ったのか、営業スマイルを浮かべた氷堂が即座に割って入った。
「どんなに忙しくても〆切を守るのが僕の美学ですから」
暗にやめさせようとするのに満面の笑みで応えつつ、ふたりは静かに戦闘モードに入ってゆく。火花が散ったのを境に一夏はそろそろと後退り、とりあえずの避難を図った。
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新たなキャラの登場にテンションが鰻上りですっ(笑)
氷堂の天敵にして帝王の琉河先生は今後更にいい味出してく予定です〜。
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seek #16 に続く
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