seek #17
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華やかなシャンデリア。噎せ返るような薔薇の芳香。
軽やかな笑い声はシャンパンの泡のように立ち上っては消えてゆく。話し相手をしてくれた琉河や時塔は瞬く間に人波に浚われ、氷堂までもその姿を隠してしまった。
本来は交流を図るのが趣旨なんだろうけれど、どうもこの場の雰囲気は得意ではない。
しばらく壁に凭れてグラスを空けていた一夏だったが、軽く酔いが回ったのもあり、そっと廊下へと足を向けた。
ホテルの中でも奥まった場所にある大広間。
さすがにそこに用がなければなかなか近付く勇気は湧かないだろうといった造りだ。それゆえにパーティメンバー以外の人間を遠退かせ、広い吹き抜けの空間を独占させていた。
窓からは綺麗な夜景が見える。背の高い観葉植物の陰に身を滑らせると、ひんやりとした空気が心地よかった。
「……あ、薔薇の香り……」
ふと、鼻腔を擽る誘惑のムスク。どこにいても己を惑わすそれは、まるで強引な彼のよう。
誤魔化しを許さず、抵抗さえも掠め取る腕。耳元で囁き、首筋をなぞり上げる唇。欲望を煽り、本能を掴み出す瞳。それらひとつひとつが鮮明に思い出され、一夏は胸が高鳴るのを押さえられなかった。
「やだ、な……」
けれど一方で、引き攣れた痛みが去来する。
風邪で寝込んだあの日。彼の後姿を見ながら、自分は彼の恋人像を作り上げた。仕事に厳しいはずの人が全部放り出して来てくれたこと、心配してくれたことが嬉しくて、特別になった気がして、だからこそ───ブレーキが利かなくなりそうな自分を恐れた。事実を歪めたがる自分を必死に止めるもうひとりの自分が、己に楔を突き立てるために用意した恋人の存在。
ズキン、と響く胸の痛みが一夏を現実へと引き戻した。
「分かってるよ……」
自分は作家で彼は担当。
それ以上でも、それ以下でもない。
「……分かってる、から……」
意味も分からず唇を噛んだ。
取りとめもなくこんなことを考えるのは飲み過ぎたせいだ。もう帰らなければと大きく息を吐いた時、近くの化粧室から出て来た女性達の話し声が耳に入った。
「……だよねー」
「そうそう、でしょ?」
プランターで隠れた一夏には気付かないのか、立ち話に興じる彼女達は会場に戻る気配はない。このままでは立ち聞きになってしまうと気付いた時には出るに出られなくなっていた。
「やっぱ、ナイト出版のパーティって違うよね〜」
「BL雑誌の創刊パーティでここまでイケメンが揃ってるんだもんね〜」
「そんなこと言って、ひとりしか見てないくせに」
揶揄われた女性は、やだーと頬を緩ませながら言葉を続ける。
「だってあんなカッコイイ担当さんだったらかなりよくない!?」
「氷堂さんでしょ? 分かるなぁ」
その名が出るとは思わなかった一夏は、まるで自分のことのように息を殺した。
「ストイックな感じがいいよね」
「仕事もバリバリこなすしねー」
「結婚はしてないんだっけ?」
ドキン…と心臓が跳ねる。そんなこと、考えたこともなかった。
「指輪はしてないけど、最近は敢えてしない人もいるからねぇ」
「分かんないよぉ。……まぁでも、普通に彼女はいそうじゃない?」
やはり周囲からはそう見えるのだ。それが普通なのかも知れない。
「あーあ、アタシはいつでもオッケーなんだけどなー」
「あはは。あんたがオッケーでも氷堂さんは別問題でしょ」
「ちょっとー。どういう意味よぉ」
全体を混ぜっ返す明るい笑い声が響き、ひとしきりの談笑の後、一団は会場へと戻って行く。その気配が完全に消えるまで待って、一夏は長い長い溜息を吐いた。
改めて現実を突き付けられた気がした。
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すみません、予約投稿しておいたのに更新されてなかったみたいです。
たまにあるんですよねぇ……お騒がせしました(>_<)
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seek #18 に続く
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