seek #18
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気持ちが底まで落ち込むと、光さえくすんで見えることを知る。
立食形式のパーティだというのに結局何も口にすることなく、早々に帰り支度をする一夏を引き止めたのは氷堂だった。
「……もうお帰りですか」
こんな時、上手いと思う。タイミングを決して外さない男のバックグラウンドを改めて痛感させられる。
「ごめん……ちょっと俺、人あたりしたみたいだから」
だから体のいい言い訳で傍らを潜り抜けようとしたのに、つい、と差し出された腕が行く手を阻んだ。
「顔色がよくないですよ。食べずに飲んだんでしょう。───よければ、どこか静かなところに食事に行きませんか」
「うん、でも……食欲ないし……ついでに俺、金もないんだ」
あはは、と空元気で笑ってみる。何でもいいから断りたかった。
「ご馳走しますよ。私が来て欲しくて誘ってるんですから」
「………もう」
逃げようとする退路を次々塞ぐ。それも、確実にトドメを狙って。
ゆっくりと息を吐き、仕方がないなと頬を緩めた。目だけはどうしても笑えなかった。
「氷堂さんてさ、女にモテるだろうね」
あぁ、きっと唐突な物言いに呆れるだろう。これが自分だったら折角の雰囲気が興冷めだと舌打ちするかも知れない。それなのに、対峙する相手は怒るどころか黙って耳を傾けたまま、目だけで先を促した。
「なんでって思うの? ……そんなの、すぐ分かる」
たとえば先程の女性達のように。
「凄いスマートだもん。こんな俺相手にしてくれたり、パーティに連れて来てくれたり……」
「……仕事ですから」
「うん。そう、だね……」
声は無様に切れ切れた。喉がいつの間にかカラカラに渇いていて、咽喉を下げることも出来ない。
仕事という答えが100%正解だと分かっているのに、ついさっき自分だってそれ以上でもそれ以下でもないと割り切ったばかりなのに、胸が痛むのを止められなかった。
だが、真意を見誤ってはならない。一夏は頑なに唇を噛む。
「仕事、なんだからさ……その後まで気ィ遣ってくれなくていいよ」
「私が義務感で誘っていると?」
「俺が書けないからだろ? だからあんな……キ、キスとか、するんだろ?」
BLなんて書いたこともないくせに意地になる新人教育のために。
彼女も、もしかしたら婚約者さえいるかも知れないのに。
考えれば考えるほど悔しくて、悲しくて、混乱した一夏は込み上げる涙を誤魔化しながらそれでも懸命に笑って見せた。
「俺、頑張るからさ……」
これ以上手を煩わせるわけにはいかない。
これ以上独占するわけにはいかない。
「だから、そんなに……気にしないで……」
いいよ、と続けるはずの言葉尻は強い力によって奪われた。
「まったくあなたは……どこまで鈍感なんですか」
抱き込まれた胸から直接聞こえる少し怒気を含んだ声。いつもの彼らしからぬ音。
僅かな苛立ちを隠すように何度も髪を撫でる指先がひどくあたたかく思えた。
「譲りませんよ。あなたは、誰にも渡さない」
「氷堂、さん…?」
突然のことに瞬きを繰り返していた作家は、だが、胸の棘で我に返る。
「……ダメじゃん、男の俺とか抱き締めちゃ。彼女泣くよ?」
「そう言ってるあなたの方が泣きそうですよ」
必死に眉根を寄せるのに、溢れる雫は止まってはくれない。
「イチカ」
名を呼ばれ、ぴくん、と肩が持ち上がる。
「イチカ……」
正面から見つめてくる眼鏡越しの瞳は、とても優しい色をしていた。
「私に恋人なんていませんよ」
だから安心してください、と続ける頃には唇が弓形を描く。いつもの彼をそこに映して。
「それ、どういう……」
「ふふ…。答えはあなたが知っているでしょう?」
まるで謎掛けのように最後は煙に巻くと、担当は鮮やかにくちづけを落とした。
「……っ!」
「ご馳走様」
お食事はまた今度、と付け加えることを忘れない。
いつもの彼を前に、一夏は自然に笑える自分を感じていた。
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これでもまだラブコメっていうの〜〜!(ダンダン)
この段階でもまだ答えをあげないところが氷堂なんですよねぇ……。
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seek #19 に続く
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