seek #21
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軽やかなジャズが優しいピアノに変わる。
奥にいる先客はグループで来ているらしく、特に相手をしなくても大丈夫だと踏んだバーテンは居を構え、ポツポツと話す一夏の話に根気強く耳を傾けていた。時折気持ちを確認させるように質問を織り交ぜながら、コウは自身さえも気付かなかった一夏の本心を手繰り寄せる。そうしてすべてを聞き終えた後、長く長く息を吐いて、うん、とひとつ頷いた。
「好きになりかけてるのね」
「……俺が? 氷堂さんを? ……お、男なのに!?」
「あら、ここにいる人間みんながそうだけど?」
そう言ってあっけらかんと笑うコウとは対照的に、動揺を隠そうとしない一夏を見て、それまで口を噤んでいた琉河もくすくすと笑みを漏らした。
「好きになった相手がいつも女性とは限らないって話だよ」
「そんなことって……」
言い淀み、口元に手を当てたその時、唐突に店のベルが鳴る。
「こんばんはー」
常連なのか、物怖じすることなく入ってくる客に対し、名を呼ばれた方は数倍のテンションで迎え出た。
「やーん、アサト! いらっしゃーい!」
「コウちゃんは相変わらず元気だねー。ハイ、お土産」
あはは、と笑いながら手土産を渡す彼の後ろには、背の高いエリート然とした男性が立っている。思わず見とれる一夏の隣で、琉河が「コウさんと仲良しのカップルですよ」と耳打ちした。
「ありがと。アサト大好きよん♪ さ、水瀬さんも座って座って」
「あぁ、こっちに詰めましょうか。一緒にいいよね、コウさん」
「わ、すみません。お邪魔します」
そうこうするうちに一波乱あった恋愛相談所はいつの間にか大所帯となり、一夏を囲んで時計回りにゲイのバーテン、常連のお兄さん、お兄さんの彼氏、耽美界の帝王という凄いメンツが顔を揃えた。無論、コウ、安里、水瀬、琉河の順である。
だがそこで初めて会った者同士、無難な話題をと思いきや、自他共に認める世話好きのコウが恋愛相談を放り出すはずはない。ここまできたら乗り掛かった船、店名の通り仲間の船出は見守りたいという想いがあった。
「このカップル、アサトはゲイだけど水瀬さんはノンケなのよね?」
「えぇ」
頷いた水瀬は確かめるように傍らの安里に視線を送る。何気ない仕草でありながら、恋人を気遣い、大事に想う彼の愛情が感じられる様に胸を打たれた。
「最初は同性に恋愛感情を抱く自分自身に驚きましたが……受け入れてみれば自然なことです。私は男性ではなく、安里だから惹かれたと思っています」
「……凄い。卓越してますねぇ」
しみじみ頷いている琉河の脇で、一夏は強くなる鼓動を押さえられない。
これまでの常識を打ち砕く信念。しかも自分と同じノンケだという。経験的にも、立場的にも、そう容易い決心ではなかっただろうに。
そこにどれだけの不安、どれほどの覚悟があったのか。
そしてどれだけの葛藤、どれほどの想いがあったのか。
男性ではなく、彼だからという言葉が何度も繰り返し頭を過ぎった。
「そういう恋愛だってあっていいと思うよ」
言葉を失う一夏に、安里はにっこりと笑みを向ける。
「勿論普通の恋と違って大変なこともあるし、まだまだ誤解も多いけど、俺達は生きてるんだし、ふたりの関係を守るためにやれることだっていっぱいあるよ」
「アサト立派になって……お母さん泣けてきちゃう〜〜」
そう言ってコウが半泣きになる傍ら、それまで静観していた琉河が問うた。
「どうですか、月丘先生。"リアル" に触れた感想は」
「……感動、しました……」
苦しみも悲しみも勇気に変えて、今こうして笑っていられる背景を思うと、ふたりで乗り越えた数々の奇跡に心動かされないはずがない。
すっと頬を伝う透明の雫。胸のつかえが取れた瞬間だった。
「やーん。泣いちゃった。純粋でかわいい〜〜」
忽ち力一杯抱き締めるコウに、一夏は呼吸もままならず。
「あ、あの、コウさん、苦し……!」
「コウちゃん離れなさいっ!」
最後はドタバタしながら、笑いながら、あたたかな空気に包まれて。
ようやく分かった。
自分だけに出来ることが、たったひとつあるということ───。
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凄い恋愛相談所ですね。ships メンバーはみんな濃い濃い(笑)
ようやく一夏が覚悟出来たみたいですよ。さぁ怒濤の展開です。
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seek #22 に続く
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