Monthly archives

 2008年02月 

seek #23 

←前話へ

 穏やかに晴れた平日の午後。
 ランチの時間を外したファミレスは人もまばらで、オーダーを待つウェイトレスは少し退屈そうだ。有線から聞き覚えのある曲が流れ、話し込む母親達の目を盗んでは小さな子供がはしゃぎ回る、そんなどこにでもあるのんびりとした風景の一角───明らかに他と空気を逸した男性ふたりが真剣な面持ちで向かい合っていた。
「……あの、今更ですけど、氷堂さんて普段ファミレスとか来るんですか」
「いいえ。個人的には苦手な部類です」
「だよねぇ……」
 どう見ても悪目立ちというか、異質なのだ。ただでさえ整った容姿に注目を集めやすいくせに、こんな庶民的な場所にあっては浮いていること甚だしい。先ほどの母親達が先ほどからチラチラと視線を送って来ている。
「すいません、俺が急かしたばっかりに」
「いいえ。早く会いたかったのは事実ですし、今夜は別件の会議が長引きそうですから。……でも、イチカから誘っていただけるなんて思いませんでしたよ」
 くすり、と漏らす笑みが相変わらず色っぽい。そしてその仕草にこれまでとは比較にならないほどドキリとする自分がいた。
「さ、誘うっていうのはちょっと……」
「おや、違うんですか。楽しみにしていたんですが?」
「……ズルイ。絶対俺のこと揶揄ってるだろ」
「ふふふ。あなたはかわいい人ですから。つい構いたくもなりますよ」
 ああ言えばこう言う口を塞ぐことはまだ出来そうにない。頬が火照るのを感じながらも、一夏は強引に話題転換を試みた。今日は話さなければならないことがたくさんある。
「そ、それより、具体的なストーリー展開のことでちょっと相談に乗って欲しくて……っていうか、えーと、この前送ったような感じでいいのかって話なんだけど……あ、でもその前に登場人物のオッケーもらったりとか、特に出だしの確認とか……って、普通こーいう感じでいいのかな、打ち合わせって」
 言いたいことをとにかく全部吐き出そうとする作家を前に、そのあまりに混乱した様子を見かねた編集者は一拍置いて吹き出した。
「あ、ちょ…っ わ、笑うことないじゃん!」
「だって……はは、ここまでとっ散らかる人見たことないですよ」
「ひでー! だってしょうがないだろ、初めてなんだもん!」
「えぇえぇ、分かってます。……じゃあ、順を追って詰めましょうか。大まかには昨日いただいたラフの感じでいいので、設定などから確認出来れば……」
 そう言って手元のノートパソコンを立ち上げる。それからは氷堂先行の元、全体の構成、登場人物の整理から始まり、連載以降の割り振りについて入念なチェックが行われた。
 陽が燦々と降り注ぐ窓際の席。
 遠目にはサラリーマンが学生にアルバイト紹介でもしているように見えるだろうが、実際は当人が書いたBL小説について喧々囂々に遣り合っているのだから日本はつくづく平和である。
「……ところでイチカ、ここですけど」
「え? どこ?」
「『「他人の尺度は関係ない。俺は、俺全部で氷室さんに向き合いたい」』のところです」
「───っ! ああああんた、今音読した!!!?」
「しましたが、それが何か」
「何かじゃないだろっ 恥ずかしいにも程がある!」
「それを書いたのはイチカですけど」
「だからなのっ!!!」
 なんちゅう、なんちゅう恥ずかしいヤツだ。普通の文章ならいざ知らず、セリフを、しかもBLの、その上口説き文句に匹敵するセリフを音読しやがった。
 ハァハァと肩で息をしているにも関わらず、そんなことは日常茶飯事とでもいうように担当は顔色ひとつ変えずに言葉を続ける。
「何か思い入れがあるのかと思ったんですが」
「え?」
「いえ。今までのあなたからこの言葉は出て来ないように思ったので……心境の変化でもあったのかと」
「……あー。そっか。氷堂さんプロだもんね」
 毎日文章を読んでいればそんなことまで分かるものかと恐れ入る。そして何より、それを察してもらえたことが嬉しかった。
 自分は、自分が感じたことを言葉にした。立夏のセリフには一夏の想いが込められている。それを氷室を通して氷堂が受け取ってくれたような気がして、照れくさいの同時に胸の奥が熱くなった。
「うん……。あったよ、心境の変化」
「それはあなたにとってプラスだったんですね」
 目を上げると真正面、眼鏡の奥の瞳が細められる。それを真直ぐ見返して、一夏はひとつ頷いた。
「うん」
 ふわりと微笑むと同時にテーブルの下に手が伸びる。
 そっと絡めた指先がふたりの行方を見守っていた。

----------
うわーなんか。うわーなんかBLっぽい!(今更/笑)
白昼堂々音読の刑となりましたが、なんだかんだ幸せそうです(^-^)

お気に召しましたら「BL小説」バナー↓をクリックしていただけると嬉しいです♪

seek #24 に続く