Monthly archives

 2008年02月 

seek #24 

←前話へ

 ふたりを包む日常はあっという間に過ぎた。
 まるで疾風怒濤の日々。
 一夏が自分の作品の評価に一喜一憂すると同じく、或いはそれ以上に氷堂や時塔は『seek』の創刊までに様々な思いを抱え、東奔西走に明け暮れた。
 そこに想いを込め、言葉を綴る者があるからこそ、手にした多くの者達に感動を与えることが出来る。どんなに小さくても、どんなにささやかでも、それはいつか自分に還り、喜びとなって昇華されるのだと一夏は願ってギリギリまで校正を繰り返した。
 そんな、精一杯の作品が世の中に出る。
 雑誌創刊の日、慌ただしい合間を縫ってふたりは高層階のレストランで祝杯を挙げた。
「……乾杯」
 カチン、とワイングラスを傾けるとハンドベルのような和音が響く。
「お疲れ様でした、氷堂さん」
「えぇ、イチカも。……そして、おめでとうございます、ですね」
 今日がデビュー記念日ですよ。
 そう言って傍らの美丈夫がゆるりと笑う。激動の日々の疲れなど微塵も見せず、綺麗に微笑む姿に一夏は心臓を高鳴らせた。
「氷堂さんのおかげだよ」
「おや、あなたがそんな殊勝なことを言うなんて」
「そりゃ、俺だってこういう時ぐらい……」
 言葉尻が消えたのは押し黙ったせいではない。頬に伸びる指先を見とれるうち、つい、と引き寄せられ、瞬く間に温度を重ねられたから。
「……んっ」
「イチカ……」
 熱い舌先が唇をなぞる。久しぶりの感覚に鳥肌が立った。
「ん、ん…っ ……ぁ」
 ゆっくりと口端まで舐め辿った舌が何度も下唇を往復する。まるで味わい尽くすような動きに身体の芯がジン、と痺れた。それをどうすることも出来ずそっと薄目を開けた瞬間、僅かな隙を突くように歯列が割られる。
「ちょ…っ」
 ようやくのことで引き剥がしたのも束の間、今度は項に唇を寄せるのを寸でで防ぎ、一夏はとうとう声を上げた。
「氷堂、さんっ」
「………もう。何ですか」
「何ですかじゃ、ない、でしょ……っ もう、これから食事だっていうのに急に何すんの」
「イチカがかわいかったので。イチカからいただこうかと」
 さすが天下の鬼担当。このセリフをしれっと言えるのはこの人しかいない。
「もー。折角感謝のひとつも言おうかって時にさ」
「ふふふ。その代わりキスをいただきましたので」
「……もう」
 思わず口元を手で覆う。今更のように早鐘を打つ心音さえ聞こえてしまうかと思った。
 誤魔化すように口を付けた白ワインはよく冷えていて、スッキリとしたドライな味わい。目の前の人によく似合いだと思い巡らせ、ふと、目で追っていたのはその唇。ついさっきまで重なっていたもの。
「イチカ」
「……え? あ、なに?」
「ふふ……そんなに気持ちよかったですか?」
 何が、と問うはずの口も、視線を交わすための視界も、気が付けば彼で埋もれる。
「あんまりかわいいことをしないでください。今ここで抱いてしまいたくなる」
「だ───!!!? は、はい?」
 鳩が豆鉄砲を食らったとしてもここまでマヌケな顔はしないだろう、と我ながら断言出来るほどポカンと口を開けた一夏は、言葉の意味を理解する間に軽く数分置いていかれた。
「私も精進しないといけませんね。あなたに煽られていたら身体がいくつあっても足りなくなります」
「そそそそれはこっちのセリフだろ! 氷堂さんと一緒にいたら心臓いくつあっても足りないよ!」
「そのうち強くなりますよ」
「その前に死んじゃうでしょ!」
「じゃあ、その時は私の腕の中で」
「勝手に決めんなー!」
 わぁわぁと前後不覚に陥る作家を前に、そんな慌てぶりすら余裕の笑みで見守る担当。やはり今夜も個室にして正解だったななんてあさってのことを考えている傍で、一夏はしばらくひとり派手にとっ散らかっていた。

----------
いよーしこれから目くるめく!と思ったら、キスだけで1話消費しました……。
これから数話かけて氷堂さんのお預けプレイが楽しめますよー(棒読み)

お気に召しましたら「BL小説」バナー↓をクリックしていただけると嬉しいです♪

seek #25 に続く