seek #25
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今にして思えば、最初からすべてお見通しだったのかも知れない。
食事の後移動したバーで、一夏は腕時計を見るのをやめた。
酔った時の時間感覚ほど危ういものはないと知りながら、刻一刻と迫る終幕を気付かぬフリでやり過ごしたくて。自分の変化に一番驚いているのは他でもない自分なのだけれど、もうどう取り繕っても気持ちを誤魔化すことは出来そうになかった。
「……まったく、あなたという人は……」
終電を逃したと告げる作家に苦笑した担当の第一声。しょうがないですねぇ、と少しだけ間延びした声が甘やかな響きで耳に届いた。
「送りますよ」
会計を済ませ、先に立って歩く背中を半歩遅れてついて行く。月光に照らされた黒髪がこの上なく美しく見えた。
「………どうしたんです、急に」
だから後ろから抱き付いて。やや驚いたように立ち止まるのを見上げて。
「俺、今酔ってんの」
「えぇ、そのようですね」
「だから思い切って言うけど」
一度言葉を切って息を吸う。夜の空気が肺を満たした。
「今日を終わりにしたくない。このままずっと一緒にいたい」
コートの背に押し付けた声はくぐもっていたけれど、それでも伝わったのが気配で分かった。そっと巻き付いていた腕を外すと向き直り、大きな掌が頬を包む。あ、と呟いたはずの唇は僅かに開いたまま、彼の温度を受け止めていた。
「……ん」
月明かりの中、暗闇のキス。
裏通りから空を仰ぐように。
「どこで覚えてきたんですか、そんなセリフ」
「……秘密」
「困りましたねぇ。そんなかわいいことを言われたら、離してあげられなくなりますよ」
色素の薄い髪を掻き上げ、氷堂の唇が額に触れる。そのまま流れるように瞼、頬、項を通って首筋へ。
「……ぁっ」
「そんな顔をして煽るあなたが悪い。私の自制心を試すつもりですか?」
伸びたままの腕を取り、氷堂は手の甲にくちづける。そのまま、ちゅ、ちゅ、と音を響かせて掌をやんわり吸い、力が抜けたところを抱き締めた。
「イチカ…」
あぁ、耳元の囁きがトドメを刺す。
「私の家においでなさい───」
辿り着いたマンションは一目でハイグレードと分かる物件だった。
綺麗に刈り込まれたグリーンがぐるりと囲うエントランス。間接照明で照らされたアイボリーの人工大理石が柔らかい雰囲気を作り出し、深夜の帰宅と相成ったふたりを暖かく迎えていた。
「ここです」
そう言って氷堂がエスコートしたのは最上階に近いフロアで、目の前に広がる闇は殆どが空なのだと分かる。眼下に広がるパノラマ夜景がクリスマスのようにキラキラと光っていた。
「……凄い、綺麗だね」
「さぁどうぞ、先生?」
「うわ、今更先生はないでしょー?」
含み笑いを交わしながらドアを潜る。先に訪問者を通した家主はドアを閉めるなり、まだ靴も脱ぎ終わらぬ相手を後ろから抱き締めた。
「氷堂、さん?」
「我慢出来ません」
「……!」
耳の後ろに感じる熱い吐息。封じ込まれる熱に思わずギュッと目を閉じた。
「ちょ…っ や、ぁ……」
舌先が耳に差し込まれ、耳朶をゆっくりと甘噛みされる。ぞくりと鳥肌が立つのと同時に僅かな疼きを下肢に感じた。
「あ…っ」
後ろから伸びる両手。シャツのボタンを外した指先が意図を持って下へと降りる。
「な、ちょ……待っ」
「待てません」
するりと肌に触れた掌はやけにサラリとしていて、妙な現実感に途端理性が砕かれた。
「……氷堂、さんっ」
「なんですか」
「あ、足に……力、入んない……」
半ば崩れるように膝を折るのを後ろから抱き止められ、これ以上ないほどの密着感の中、襟足を掻き分けるように唇が添えられた。
「イチカ。愛しています」
「……んっ」
「あぁ、あなたのすべてを飲み込んでしまいたい……」
腰を軸に反転させられた身体は壁に押し付けられ、忽ち土砂降りのキスの雨に溶かされてゆく。呼吸さえままならぬほど激しく舌を絡め取るくちづけは互いの輪郭さえも朧にした。
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いよいよ氷堂恭一の独壇場です。まずは玄関、基本ですね!(爽)
どこまでヤラしいんだおまえはと画面に向かって罵りつつ、
明日はR18でお願いします。押忍。
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seek #26 に続く
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