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 2008年02月 

seek #30 

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 人と人の繋がりは実に興味深い。時として理性を失わせもするが───。

 ナイト出版の5階。
 BL雑誌『seek』を担当する部署の一角で敏腕担当者は軽く途方に暮れていた。
 雑誌創刊から新人育成に至るまで、実に様々なことに立ち会えたことは幸運だったと思っている。特に、一夏のデビューを見守り導いて来られたことを誇りにすら思っていた。無論、ラブラブな毎日にもうこれ以上言うことはない。
 ───だが。
 一時の擦れ違いから彼がどのように立ち直ったのかを聞き出した昨夜、氷堂は再び苦悩する羽目に陥った。よりにもよってパーティで引き合わせた琉河に相談し、更にはコウ達にまで話が筒抜けだと言う。
 いや、コウはいい。shipsといえばそういうところだ。今後顔を出しても彼らは盛大に喜んでくれるだろうし、イチカも連れて行きやすい。むしろ問題は天敵、琉河の方だった。
「まさかあの人に恩が出来るとは……」
 まったくもって予想外、簡単に言うと論外だったりするのだが、それでも一夏が立ち直るキッカケを与えてくれたわけだし、当時の自分にはその役目は負えなかったわけだから、義理が出来ても致し方なしというところだ。だからこそ、悔しかったりするわけで。
「まったくどうしてくれようか……」
 物騒なことを考えつつ、休憩しようと席を立つ。コツコツと床に響いていた足音は、だが自動販売機まで辿り着かずに途絶えた。目の前に意中の相手がいたからである。この場合、愛しい一夏ではなく、残念ながら、
「琉河先生……」
 ということになる。
「氷堂さん。お久しぶりですね。『seek』順調だって聞きましたよ」
「えぇ、おかげさまで……」
「……あれ、お疲れですか? ちゃんと寝てます? 身体が資本ですよ」
 誰のせいだ……という逆恨みを喉元で何とか飲み下して。
「あ、そういえば月丘先生はお元気ですか? 随分悩んでいたみたいですが」
 えぇい、小首を傾げる仕草がいっそ憎らしい。見た目が下手に綺麗な分、余計にだ。
「その節はお世話になりました。あなたのお陰だと言っていましたよ」
「あ、じゃあ、上手くいったんですね! おめでとうございます」
 苦虫を噛み潰したよう表情で礼を言う氷堂に対しにっこりと微笑むと、琉河は編集者をレストコーナーに促す。かつて氷堂が一夏にコーヒーを渡した場所だ。それが今、何故かこの犬猿の組み合わせで対峙している。
「ご馳走しますよ。……あぁ、勿論、今度月丘先生もあわせて3人でお祝いしましょうね」
 ハイ、と差し出されるコーヒーを複雑な思いで見下ろしていると、「毒は入ってませんよ」と付け加えられた。
「はい?」
「いや、僕をライバルだと思ってくれてるみたいですが、僕にも恋人はいますしね。……ま、月丘先生なら奪っちゃいたいなと思う時もありますけど♪」
「はい!!!?」
 にこにこ言葉を続ける傍で氷堂は必死に理性を掻き集めていた。
「今度、男同士のアレコレについて月丘先生にレクチャーしなきゃ。僕はいい先生になると思うんです」
「結構ですっ」
「あれ、もうそこまでいってました?」
「……!」
「あはは。氷堂さん、いつもはポーカーフェィスなのに、月丘先生のこととなると表情豊かになるんですねぇ」
 もう放っておいてくれ……。
 軽い頭痛すら襲ってきたこめかみを押さえ、氷堂が眉根を寄せていると、遠くから琉河の名を呼ぶ声がする。
「え? もうそんな時間? すみません氷堂さん、僕これから打ち合わせがあるので……」
「はいはい、どうぞ存分にお仕事してきてください」
「うわー嫌味! でもその方が氷堂さんらしいですけど」
 くすりと笑みを漏らし、琉河が傍らを擦り抜ける。その背中に向かって、氷堂は声を掛けた。
「琉河先生! ……ありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして」
 綺麗な笑みを残して足早に駆けて行くのを見送り、心中複雑な編集者は手元のカップを一気に飲み干す。
「……今のはコーヒーのお礼、ですからね」
 言い訳するのも忘れずに。

 季節は長い冬を越え、春を迎えようとしていた。

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なんか氷堂さんがかわいく思えて気持ち悪い(笑)
このふたり、犬猿の仲とは言いながらも案外仲良しかもしれません。

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seek #31 に続く