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 2008年02月 

seek #31 

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 思いがけず琉河に事後報告する羽目になった氷堂は、こうなりゃひとつもふたつも同じとばかり一夏を ships に誘った。無論、こちらの方がはるかに気が楽であるし、素直に礼が言える相手でもある。そしてまた、久しぶりにコウとオーナーの顔を見たいという一ファンの思いもあった。
 カラン、カラン。
 木製の重厚なドアを開くとベルが鳴って来客を告げる。混み合う店内の奥、給仕に徹していたはずのその人は、パッと顔を上げるなり満面の笑みで両手を挙げた。
「きゃーん! 氷堂さんと月丘センセ! ようこそ〜〜」
 相変わらずのハイテンションぶりにふたりは顔を見合わせ、揃って吹き出す。それに「はーい、そんなトコでキスしてないで!」と教育的指導が入り、カウンターに座っていた別の客の笑いを誘った。
「久しぶりだな」
「その節はいろいろありがとうございました、コウさん」
 ふたり分の席にようやく腰を下ろし、コートを脱ぐ。カウンターに入ったコウは早速グラスを取り出しながら、ニコニコとふたりを見返した。
「はいはい、堅い挨拶は後でねー。それよりふたりともお揃いでいらっしゃい。一緒に来るってことは、もしかして……?」
「あぁ、予想通りだ」
 上目遣いの答えを肯定してやれば、途端コウは我が事のように喜んでみせる。
「きゃー! おめでとー! そうとなったらお祝いしなくっちゃ」
 何がいい? アタシが奢っちゃう! と両手を組んだまま身をくねらせるのに吹き出す傍ら、氷堂は口元に手を添えて笑いを堪える。その時、厨房からオーナーの梶原が姿を見せた。
「あぁ、梶原さん。ご無沙汰してます」
「いらっしゃい。珍しいね」
「ちょっとカジー、そんなトコでパスタとか作ってる場合じゃないわよ。聞いて、あのね、氷堂さんがね、オメデタなの〜!」
「俺は身籠もってなどいないぞ!」
「似たようなモンじゃない〜」
「だいたい俺は攻めだ」
「そうだっけ」
「氷堂さん! コウさん!」
「あっはっは!」
 まるで漫才のような遣り取りに一夏の素っ頓狂な声が響き、それを見ていた梶原はひとり楽しそうに声を上げて笑った。左手にフライパン、右手にトングを持ったまま呑気に笑う、実はこの人が一番分かっているのかも知れない。オーナー然とした風貌にその場の全員が顔を見合わせ、笑いを揃えた。
「……今こうしていられるのも、あの時話を聞いてくれたコウさんのお陰ですから」
「いえいえ〜。アタシはちょっとお手伝いしただけだし、それにホラ、先輩カップルがアドバイスしてくれたもんね」
「先輩?」
「あぁ、たまたまアサト達来てたのよ。氷堂さんずっと会ってないでしょ」
「そうだな。彼が店にいた時以来だな……」
「ふふ。アサトにもノンケの彼氏が出来ちゃって。その彼と一緒だったから、思わず引っ張り込んじゃった」
 そう言うなり事細かにその時の情景を再現してくれるものだから、場の焦点となる一夏はただひたすら顔を赤らめることしか出来ず、対する氷堂は興味深げに、梶原はのんびりとフライパンを洗いながらコウの独壇場に耳を傾けた。
「……なるほど。じゃあ彼の恋路も君のお陰か」
「ふふ…これで何組目かしらね。アタシ、恋愛相談所でも開こうかしら」
 調子に乗って皮算用を始める傍ら、咥え煙草で洗い物を終えたオーナーが苦笑する。
「どこでやるんだ」
「勿論ここに決まってんじゃない。そのうちカジーから乗っ取ってアタシのお店にするんだもん♪」
 さも当然と言わんばかりの口調に一同がドッと沸く。話が一段落付いたところを見計らって、コウはステアしたグラスをふたりの前に差し出した。
「あ、これ……」
「うん、お祝いね。月丘センセのは、この前気に入ってくれたピーチリキュール。氷堂さんはブランデーでよかったかしら」
「あぁ、覚えててくれたのか。それをもらおう」
 古い常連の好みを忘れない。小さいけれど大切なことをキチンとこなしてくれるコウに心で感謝しつつ、氷堂は渡されたグラスを受け取る。
 コウ、梶原も加わり、4人でカラン、とグラスを合わせた。
「……そういえば、月丘センセの連載ってこれよね?」
 そうして程よく酔いの回った頃。
 何を思ったか唐突に話を切り替えたコウは、いそいそといった様子でカウンターから1冊の雑誌を取り出して見せた。
「うっわ! なんで持ってんですか!」
「琉河センセがくれたから♪」
 仰け反る一夏と苦々しい氷堂。新人は照れ隠しのため顔の前でパタパタと手を振る一方、担当といえば、看板作家の根回しの良さに切れそうになる血管を必死に押さえていた。
 そんなふたりの苦悶などどこ吹く風、コウはページを捲りながら意味深長な笑みを浮かべる。
「やっぱねー、トキメキは必要よねー」
 それが二次元でもオッケーなの!と豪語しつつ、ようやく辿り着いた見開きで再度うっとりと眉を下げた。
「月丘センセ、『極上ダーリン』だなんて、ノロケなんだから、もう〜〜」
「へっ!!!???」
 これは夢か、幻か。
 寝耳に水のタイトルに一夏の声はひっくり返った。
「何そのタイトル!」
 そう叫ぶりなり睨み付けたのはバーテンではなく、無論隣の担当である。
「あなたにも伝えてあったでしょう、何度も、電話で」
「……そうだっけ?」
「仮タイトルどうしますかって相談したじゃないですか。そしたら全部任せるって……」
「それがこれかよ!!」
「我ながらいいタイトルです」
「自画自賛すんなー!」
 至近距離の応酬にコウは派手に笑い散らかし、やれやれと肩を竦めた梶原は再び奥に消える。初々しいカップルの毒気に当てられたオーナーが次の注文に腕を振るう間も、3人のお喋りはほのぼのと続いた。

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ships 再び。報告会はしておきたいよね、ということで梶原さんもご登場。
コウの恋愛相談所も書いてみたいな〜なんて夢を膨らませてみたり(^-^;)

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seek #32 に続く