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 2008年02月 

seek #33 

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 同時刻───。
 不審者のレッテルをその容姿だけで辛うじて免れた編集者が、作家当人以上に緊張した面持ちで書店の前に立ち尽くしていた。
 今日この日にわざわざ外回りを入れたのはすべて市場調査のため。営業でもないのに売り場まで足を向けるなど、担当作家のサイン会でもない限りあり得ない。そう、つまりこれは編集者になって以来前代未聞の訪問───すべてはイチカのためである。
 駅前に居を構える大型店舗だけあって、並ぶ書籍の数たるや半端ではない。無論BL小説の類も平台に山と積まれ、踊るポップも華やかだ。そこに幅広い年齢層の女性達がひっきりなしに訪れては、手に手に本を取って矯めつ眇めつしている。
 いつもならそんな様子を遠巻きに見遣るだけなのだが如何せん、そこにイチカの、自分と二人三脚で作り上げた新刊が並んでいるのかと思うと、そう短くはない編集者人生で一番と言っても過言ではない緊張を強いられるのが分かった。
 だが、そうしていても始まらない。
「……行くか」
 意を決して歩を進めたところ、出鼻を挫くタイミングで出会ったのは犬猿の相手。
「琉河先生」
 思わず出掛かったチッという舌打ちを何とか飲み込む。相手も実に涼しいもので、にこやかな笑顔で応じてみせた。
「おや、氷堂さん。本屋で会うとは珍しいですね」
「いいんですか、こんなところでのんびりされて」
「仕事の調整ぐらい僕にも出来ますから」
 そう言ってにっこりと小首を傾げると、早く振り切りたい担当者の先回りをして琉河が問う。
「それより氷堂さんこそ、書店巡りなら営業に任せておけばいいのに、わざわざ出向かれるとはよほど気になるんでしょうね」
「何がですか」
 あくまで落ち着いた口調を保ちながらも、こめかみの血管は半分切れそうなほどである。そんな相手を面白がっているのか、看板作家はくすくす笑いながら言葉を続けた。
「僕に分からないとでも? 月丘先生の新刊でしょう」
 指さされた正面、一気に焦点が合致する。
「……っ」
 なかなか近寄れなかったことなど嘘のように足早に歩み寄った平台には、ギリギリまで手直しを繰り返した珠玉の一品が高く積み上げられていた。その傍らには営業が設置を依頼したのだろう販促のポップが立ち、立派な単行本デビューを果たした姿がある。氷堂はしばし言葉を失いその場に立ち尽くした。
「……よかった……」
 長い長い溜息。
「ちゃんと出たんだな……」
 安堵と喜びの入り交じるそれ。
 心配がなかったわけじゃない。それでも壁を乗り越えて、こうして結果を出すことが出来た。それを彼が成し遂げたこと、自分が支えられたことを誇りに思う。今はまだ荒削りだけれど、イチカはこれからどんどん目覚めてゆくだろう。自分はその傍らで、余すところなく蝶の羽化を見守っていよう。
 喜びを噛み締める脇で、麗しの看板作家が眉を下げる。
「あなたでもそんな顔するんですねぇ」
 喧々囂々も一時休戦。和やかな横顔に琉河が戯けた口調で切り出した。
「氷堂さんが担当になったら、僕の本もそうやって見守ってくれるのかな」
「まぁ、一応は」
「……ふふ。素直な反応。悪い気はしないけど」
「その代わり、ベストセラーでなければ許しませんよ」
 ニヤリと口端を持ち上げるのに、何故か「そうこなくちゃ氷堂さんじゃないよね」と返される始末。
 友達にもあげようかな、と琉河が2冊手に取るのを見遣りながら、名残惜しい思いを抱えつつ氷堂もその場を後にした。
 ふたりの愛の結晶が多くの人に感動を与えることを願いながら───。

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琉河先生お買い上げのうち1冊はコウちゃんのところに嫁入りです(笑)
氷堂さんとは違った感じで一夏を大事にしてるのが書いてて楽しい。

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seek #34 に続く