seek #34
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暑さ寒さも彼岸まで。喉元過ぎれば熱さを忘れる。
単行本発売初日は各所でビッグバンが起きた『極上ダーリン』だが、今となってはあの大騒ぎがかわいらしいエピソードとして語られるほど、一夏は『seek』での人気を不動のものとしつつあった。
知名度のない作家が月刊誌で名を馳せることが出来たのも、ひとえに作品───純粋で深い心理描写が読者の心を掴んだからに他ならない。更に言うならば、それらすべてが一夏の実体験に基づいているからこそ成し得るリアリティの凝縮があった。
好調な反応はシリーズヒットを導き、担当は営業と共に販促キャンペーンに駆けずり回る。そのため普段の仕事といったらアシスタント達が入れ替わり立ち替わりジャッジを求め、それに一瞬で判断を下すというハードスケジュールを極めた。
「氷堂さん、来月号の初稿出ました!」
「分かった、目を通すからすぐ持って来てくれ。それと単行本の表紙は上がったか」
「これです。イラスト3パターン用意してます。帯と表紙2,3はこれを」
「この絵はダメだ、艶が足りない。立夏はもっとかわいくて淫靡なイメージで。特に2冊目は意外性が大事だからな」
「氷堂さん、来月号のキャッチコピーはこんな感じでいいですか」
「いや、もっと情熱的に攻めてくれ」
「折り込みチェックお願いします」
「トリミング、もっとギリギリまで出してくれ。文字色はワインレッドで」
「次のセンター企画、琉河先生と月丘先生の対談ってリクエストがあるんですが」
「言語道断。食われるぞ」
1日通してこの調子である。ぬるくなったコーヒーに顔を顰めつつ、敏腕編集者は改めてアシスタントを見渡した。
「今日の20時にもう一度確認する」
「……っ!」
それはつまり、その時間までに死んでも上げろと言っているわけで。
通常3日の業務を数時間でこなせとのお達しに誰もが半分固まりつつ、部屋を後にする後ろ姿を見守ることしか出来ない。逆らったら明日はない、そう背中が告げていたせいだ。
ドアが閉まるなり誰からともなく漏れる溜息、そして悟りの微笑み。
「真性Sには敵わないよな……」
「いや、それでも限度があるだろ」
「他の先生の担当の時はあそこまで厳しくないよねぇ、氷堂さんて」
「月丘先生限定?」
「月丘先生お気に入り?」
全員互いに目を合わせ、うっとりする者、嘆く者。
「月丘先生も、大変よねぇ〜〜!」
半数を占める女子社員が妄想を膨らませて宇宙と更新し出す中、肩身の狭い男性社員は更に胃痛を堪え忍ぶ。
オープンカップルさえ許容する、ナイト出版の明日はどっちだ。
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毎日リアルカップル観察出来る職場、万歳(笑)
今回アップが変則的な時間でしたが、#35は日付変更と同時です。
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seek #35 に続く
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