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 2008年02月 

seek #36 

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「……ふー」
 熱いお湯に声が漏れる。
 思わず「極楽極楽」などとジジくさいセリフを吐きつつ、一夏はゆっくりと湯船に身体を沈めた。
 氷堂が迎えに来たのは日付を少し越えた頃。そこからすぐに到着したのだから風邪など引きようもないというのに、変なところで心配性なのか過保護なのか、こうして風呂を用意され、身体が温まるまで出てはいけないという。
「まぁ、悪い気はしないけど」
 なにせアパートの倍はある広さのバスルーム。開放的な空間は素直に気持ちよかった。
「……これが薔薇風呂じゃなければもっとね……」
 噎せ返るような芳香に一夏はこっそり溜息を吐く。
 ワインを溶かしたような湯に加え、真っ赤な薔薇の花びらが浮かぶそこは一種の異空間と言っていい。ここはエステか、リゾートか。なんで男ふたりが入るのにこんな趣向が必要なんだよ。
 心の中であれこれ文句を並べていると、背後で扉が開く音がした。
「湯加減はどうですか」
「あ、うん。ちょうど……」
 湯煙で見失った相手が実は極近くにいた事実に声を飲む。動揺したと悟った氷堂は、にっこり微笑むなり唇を合わせた。
「んっ んーっ」
「イチカ……目を、閉じて?」
「や、……っふ、ぁ……っ」
 久しぶりのキスは深く。
 貪る刺激に下肢がじわりと疼き始める。
 体中の力が抜け、呼吸さえも上手く繋げない。角度を変え、強弱を付けながら舐め上げられると、何も考えられなくなった。
 逃げを打った腰を抱かれ、ちゃぷん、と細波を立てる水音が羞恥を煽る。徐々に正直な反応を返し始めた身体を眺め、氷堂は嬉しそうに口端を持ち上げた。
「いやらしいですね、イチカは」
「な、ん……っ それは氷堂さん、だろっ」
「ほら、もうこんなに色づいていますよ」
 す…っと指先で触れられただけで鳥肌が立つ。
「誘ってるんですか」
「……バカ」
 再びくちづけが降る頃には意識さえも軽く歪んだ。
 そうして一夏がボーッとしているうちにバスタブに身を沈めた氷堂は、当たり前といった調子で後ろから恋人を抱き寄せる。我に返るなり、憤死しそうな状況に陥っていることに気付いたとしても後の祭り。
「な、な、な、なにしてんの!?」
「なにって……敢えて言えば入浴、ですが」
「そうじゃなくて、一緒に入んの!!!?」
「当然でしょう。私はあなたを味わい尽くしたいんです」
「───っ」
 耐性はあると思っていたのに、こうして耳元で囁かれると威力倍増するのを身を以て知った。
「ねぇイチカ。乾杯しませんか」
 首を傾げて振り返ると、氷堂がハーフボトルを掲げて見せる。
「喉が渇いたでしょう。美味しいシャンパンを冷やしておいたんです」
 小気味いい音を立ててフルートグラスに注がれた途端、ふわりとしたいい匂いが鼻孔を擽る。淡い琥珀に溶ける気泡は美しい真珠を見ているようだった。
「綺麗だね……」
「あなたの方が綺麗です」
 後ろから抱き締めたまま、首筋にそっと唇が這う。ぞくりと身を竦ませれば甘噛みされ声を殺した。
「乾杯しましょう───あなたに」
 そう言ってグラスを持ち上げるのを振り返り、くすりと笑う。たまにはこんな甘い雰囲気も嫌いじゃない。
「じゃあ俺は、氷堂さんに……」
 ひとくち含んで、喉を滑り落ちる快感に酔う。
 振り返って唇を求め、その甘さに捕らわれてゆく。

 さぁ夜は、まだ始まったばかり。

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薔薇風呂でシャンパンはどうしてもやってみたかったシチュエーション。
明日からは R18でお届けします〜。

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seek #37 に続く