seek #40
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唐突なプロポーズから半月。
日常生活は特に変わったこともなく、相変わらず赤面しながら作品を書いては猛烈な勢いでダメ出しをされ、食ってかかり、逆に音読され、羞恥と後悔でがっくりと肩を落とす毎日である。
楽しくて、刺激的で、時に憂鬱な日々。
そんな中、とうとう迎えた卒業式が馴れ合いに一線を画す雰囲気を漂わせていた。
「あんまりちゃんと通わなかったよなぁ……」
卒業証書の入った紙袋を前後に大きく揺すりながら、一夏は友達同士で輪を作る集団から少し離れて見遣る。古巣を去るということはそれなりに感慨深いものがあったし、仲の良かった研究室仲間と離れることに寂しさも感じたけれど、思い出を語り合う気分ではない。
「ま、実感自体が薄いしな」
なにせ教授のお目こぼしでギリギリ単位をもらったクチだ。その上研究室に来ていた推薦を断り就職もしなかったとなれば、大学自体にしがみ付く要素は薄い。実際、両親からの餞は「元気でいなさい」との電話だけだった。
「……薄情者め」
いい意味で放任主義。今頃は夫婦揃って海外旅行にでも行っているに違いない。
苦笑と共に、一夏はもう一度ぐるりとキャンパスを見回す。桜で埋め尽くされた周囲、風が吹くたびに薄紅色の雪が降っているようで、思わずすっと目を細めた。
ここから新しいスタートを切る。自分の足で歩いていく。
大きく深呼吸をして目を上げた、その先。
校門の向かい側に陣取る真っ赤なセダンが目に入った。まるで誰かを待っているように横付けされたボディは綺麗に磨き上げられ、持ち主の手入れの良さを思わせる。近付いていく一夏に気付いたのか、運転席のドアを開けたそこには───見慣れた笑顔があった。
「……氷堂さん……」
桜舞い散る向こう、花霞の中で待つ人。
「ご卒業、おめでとうございます」
「なんで……。わざわざ来てくれたの?」
「勿論。あなたの晴れ舞台をお祝いさせてください」
そう言って目を細める仕草に、迂闊にも見取れてしまった。
「さぁ、乗ってください。素敵な場所へお連れしますよ」
耳元で囁けば途端、耳まで赤くする分かりやすい恋人に苦笑しつつ、ドライバーは率先して助手席のドアを開ける。
「だ、だって……その、仕事いいの?」
「今日の午後と明日1日、時塔に言って休みを取りましたから」
「マジで!?」
一夏を座らせると自分も運転席に乗り込み、氷堂は改めて向き直った。
「あなたの大切な日に一緒にいる特権は私だけのものでしょう?」
「……あはは。さすが強引だね」
「嫌いですか?」
「うぅん。嫌い、じゃない……」
ふるりと震える睫が影を落とす。
閉じられた瞳を愛しそうに見遣り、ゆっくりと重なる熱い唇。感触を確かめるように2度、3度と啄んでは離れる軽いキスは、やがて濃厚な愛撫へと強さを変えて。
「……ん、っ」
鼻から抜ける甘い音。
ひととおり味わい尽くされた頃にはすっかり力も抜け切り、ここが何処なのかも意識から飛ばしていた一夏だったが、ふと、視界端に捕らえた見慣れた景色に瞬時に血の気を取り戻す。正確には、真っ青になって。
「……こ、ここ、俺の大学の前!」
「えぇ。何人かじっとこちらを見ていた方が」
「嘘でしょー! どういうことー!」
「いいじゃないですか、もう卒業ですよ」
パニックに陥る一夏を宥めつつ、氷堂はさり気なくドアをロック。
「立つ鳥跡を濁さずって言うでしょ!?」
「それなら、立つ鳥跡を残すっていうのはどうでしょう」
「……え?」
問い掛けた言葉は音になる前に消える。氷堂の唇が白い喉元に吸い付き、チクリとした痛みと共に真っ赤な花を咲かせたためだ。
「あぁ、綺麗に咲きましたよ」
これで思い残すこともないですね、なんて。
にっこり笑ってシートベルトを締めると、独裁者という名の恋人はスマートに車を発進させた。一方置いていかれた一夏は怒っていいやら泣いていいやらで混乱したまま、一刻も早くこの場を去りたいと願うばかり。
真っ赤なボディのRX-8が住宅街から首都高に移る頃、夕闇があたりを包み始める。
少しずつ闇に溶けてゆく輪郭。
朧になる景色とは裏腹に、眠らない夜が幕を開けようとしていた。
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門の前でお出迎えですってー。
桜舞う中、何やってんでしょうかね、このオープンホモは!(笑)
ちなみに真っ赤な車っていうのはお約束かと思って入れてみました。
氷堂さんのイメージは紺のBMWでしたが、敢えてのRX-8。嘘ぽ〜(゜Д゜)
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seek #41 に続く
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