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 2008年02月 

seek #41 

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 お祝いにと連れて行かれたのは高級ホテルだった。
 落ち着いた佇まいと年季を感じさせる調度品。煌びやかなシャンデリアがマボガニーに映り、磨き抜かれた床に零れている。 まるで別世界と思えるほど日常から切り離された空間にあっても物怖じしない氷堂は、恋人をエスコートしながらレストランへと足を向けた。
「イチカ、アペリティフは何にします?」
「……うーん。俺だけ飲んだら悪いよ。運転あるでしょ?」
「ここまで来て帰すと思いますか?」
 眼鏡越しの目が告げる、今夜は朝まで離さないと。
「……あ、そういうこと……」
 軽く苦笑しつつ、よく冷えたミモザを味わう。喉を滑り落ちるアルコールの心地好さに身を任せながら、一夏は改めて目の前の男に向き直った。
 プライベートで対峙する彼はまさに非の打ち所がなく、女性なら放っておかないだろうと思える。端整な顔立ち、サラリとした髪。それを後ろに撫で付けて、薄い唇が弓形を描く。それはみるみる大きな弧となった。
「どうしたんです、ジッと見たりして。……見とれましたか?」
「………うん」
 誤魔化すでなく、否定するでなく、一夏はこくりと頷いた。仕事で忙しいだろうに何とか遣り繰りをして卒業祝いをしてくれる、氷堂の優しさに少なからず心動かされた。
「だってやっぱこうして見ると、格好いいなぁと思って」
「あなたから言葉で褒められるのは初めてかも知れませんね」
「変、かな……」
「いいえ。嬉しいです……とても」
 そう言って真直ぐに見返してくる眼差しの深さに鼓動が跳ねる。いつまで経っても慣れることなどないだろう、この、ドキドキ。
「……ふふ」
「どうしたの?」
「いえ。初めて会った時はまさか、こんなことになるとは思いませんでしたから」
「あぁ、そうだよねぇ」
 忘れもしない、本来の担当である斉藤が緊急入院し、途方に暮れたあの瞬間。氷堂が通り掛からなければ自分は今もデビューすら出来ていなかったかも知れないのだ。当時の遣り取りを思い出し、ふたりは揃って苦笑を浮かべた。
「てか、思い出した。氷堂さん、あん時俺に『やめとけ』とか言ったよね!」
「そりゃ20歳そこそこの男子学生にBL書けとは言えないですし」
「実際書くことになったじゃん」
「それが相当イレギュラーなんですよ」
「そうなの!?」
「筆力がなければお断りしていました。あなたに会って、その可能性に賭けてみたいと思ったんです」
 それに、と一呼吸置くと、氷堂はグラスの傍らから手を伸ばす。
「……きっと、初めて会った瞬間、あなたに惹かれていたんです」
 そっと指先を重ね、慈しむように手を滑らせた。
「氷堂さん……」
「イチカ、あなたに会えてよかった」
 出会った日の思い出が走馬燈のように過ぎるのに、ただ目を細めることしか出来ない。
「あなたを好きでよかった」
 鼻の奥がツンとなる。掌の中心に甘い疼きが広がってゆく。
「……ありがと。……凄く、嬉しい」
 半分籠もった声は小さかったけれど、恋人の耳にちゃんと届いた。
「俺も、好き、だから」
 気恥ずかしさで真っ赤になったまま俯く一夏に笑みを向け、氷堂はそっと両手を取る。
「かわいい人。愛していますよ」
「〜〜〜〜っ」
 耳まで赤くするのを余所に、空気を整えた氷堂は、運ばれてきた前菜を前に満面の笑みを浮かべた。
「さぁ、いただきましょうか」
「う、うん…」
 ぎこちなくナイフを取り上げた、その時。
「出来たらあなたを先に食べたいところですが……」
「へっ!!?」
 ニヤリと笑う確信犯の笑み。
「期待していただいたところ申し訳ないですが、それは食後のお楽しみということに」
「き、き、期待なんかしてないよっ」
「ふふふ。楽しみですね」
「何がっ」
「フルコースが、ですよ?」
「……あ、そう」
「勿論デザートはイチカ、あなたですから」
「もー、どーして氷堂さんはそうかなー!?」
 言えば言うほど墓穴を掘る。
 かくして、黙々と食事を口に運んでは氷堂に揶揄われ笑われるというメビウスの輪に嵌るばかりで。心の安らぎと身の危険を動じ感じるサバイバルナイトの幕開けだった。

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口説きながら揶揄いまくる、氷堂さんの本性が見え隠れ。
当然この後は据え膳です。というわけで、また近々R指定で……(^-^;)

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seek #42 に続く