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 2008年03月 

seek #50(完結) 

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 桜が空を茜に染める頃。
 ようやく落ち着きを取り戻しつつある日常とは逆に、ふたりの仕事は多忙を極めていた。
 本来の連載である『極上ダーリン』シリーズは既に確固たる地位を確立し、新人としては異例のスピード出世として注目を集めている一夏。そんな彼に依頼は殺到し、内容は原稿に留まらず、対談やエッセイなど少しずつジャンルの幅を広げつつある。ここ最近もドラマCD化したシリーズのブックレットに書き下ろす小説を寝ずに校正したぐらいで、伴侶である氷堂共々嬉しい悲鳴を上げていた。
 慌ただしくも充実した毎日。
 薬指に光る銀の誓いを目に留めながら、今日もまた軽快にキーボードを叩いてゆく。
「……あ、コレどうしようかな」
「何です? 調べ物ですか」
 家でも出来るが便宜上、と出版社のいつもの会議室に詰め次編のストーリーを練っていた一夏は、ふと画面を覗き込んで手を止めた。
「うぅん。ちょっと日程的に被るなーと思って」
「ブックレットはもう終わりましたし、近々大枚の書き下ろしはなかったはずですが……」
「えーと、実はもう1本、連載の話がきてて……」
「……なんですって?」
 ピキッと空気が凍ったのが気配で分かる。
 秒速で鬼の形相に変わった氷堂を前に、頬を引き攣らせた作家は薄ら笑いを浮かべるしかなかった。
「いや、編集長が、そろそろいいんじゃないって言ってくれて……。一応話聞いてみることにしよっかなって」
 胸の前で両手をヒラヒラ振り、無害振りをアピールしてみせるのだけれど、既にスイッチの入った担当はすべてを聞き出すまで離してくれそうにないらしい。もっと言えば、
「担当は誰です」
 この一言に尽きるのだ。
「えっと、斉藤さん。覚えてる? ホントは『seek』で担当してくれるはずだった……」
「あぁ、胃に3つ穴を開けて入院した彼ですか」
「……3つも開けてたんだ……そりゃ大変だったね……」
 さすが緊急送致されるだけのことはある。一夏がその身を案じ眉を寄せる頃、そんなことなどお構いなしな美丈夫は顎に手を添え熟考していた。
「そうですか……復帰するとは聞いてましたがイチカの担当になるんですね」
「『seek』が軌道に乗ったから今度季刊誌出すって聞いたよ。だからそんな物凄く忙しくなるってわけじゃなさそうだけど……」
「それでも最初は何かと大変ですよ、同時進行のフェーズを軌道に乗るまでは特に。きちんと立っていないと、すぐどちらかにブレて共倒れにすらなる」
 全部振ってくれたらいいものを、と呟く横顔を見、一夏はふとある考えに辿り着いた。
「氷堂さん、俺が売れるの嬉しくない?」
「そんなわけないでしょう。私が大事に育てた作家です、いずれ『seek』を背負っていただきますよ」
「じゃあ俺が他に連載持つのはどう思う?」
「あなたの作品がたくさん世の中に出るわけですから、一読者としても嬉しいですね」
「それ全部をマネジメントしたかった?」
「勿論」
「てことはさ、氷堂さん、斉藤さんに妬いてるんだ?」
 一瞬、言葉に詰まったのを見逃さない。
「ふふっ。それってヤキモチなんだよね?」
「……イチカ」
「ね、そうだよね。よかったー、俺反対されたのかと思ったもん」
「まったく、あなたは……」
 手を伸ばす作家を胸に引き寄せながら、仕方ないなと眉を下げる。事実、否定するだけの要素はなかった。
「確かに、あなたの全部をすぐ傍で見ていたいと思いますよ」
「うん。でも、たまにはさ、ちょっとだけ遠距離っていうのもよくない?」
「そろそろ趣向のバリエーションにも刺激が必要という意味ですね」
「氷堂さんが言うと途端にやらしく聞こえるのはどうしてかな……」
 コラ、と諫めるのに声を立てて笑い、それを奪うように熱い唇が塞ぐ。やがて深くなるくちづけは互いの温度を等しくさせた。
「ねぇイチカ」
 不意に。
「これからはもっと忙しくなりますし、一緒にいられる時間も限られてくるかも知れません。それでも……私達は大丈夫だと思っていていいですか」
 淡々と呟く声が迷子になった子供のようで、一夏はそっと顔を覗き込んだ。
「氷堂さん、心配?」
「少しは。……それに、あなたはよく手の掛かる作家ですから……」
 そう言って誤魔化すように笑うのを、一夏はくちづけることで無理矢理止めた。
「俺達は大丈夫。そのためにコレがある」
 掲げて見せた左手。鈍色に光る銀の証。
「覚えてて。どこにいても、何してても、俺は氷堂さんのものだよ」
「イチカ?」
「氷堂さんも、ずっと俺のなの。だからちょっと擦れ違っても平気」
 それにさ、と一呼吸置くと作家は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「擦れ違うほど燃えるんだってー」
「……イチカ、それどこで覚えて来ました?」
「ん? 琉河先生の新連載」
「まったく、あなたという人は……」
 溜息がやがて深い笑みに変わる。敵いませんよと独白する頃には氷堂にもいつもの表情が戻っていた。
「そうですね。一蓮托生でしたね」
「じゃあ、そうと決まったら早速やってみよっか」
「何をです」
「遠距離ごっこ」
「イ・チ・カ!」
「あっはっは!」
 ふざけて、笑って、揶揄って。仕方ないなと苦笑する顔にすら胸が高鳴る。
 極上の笑みと、極上のキス。そしてたったひとりの極上ダーリン。
「へへ。氷堂さん大好き!」
 そうして一夏もまた、満面の笑みと共に瞼を閉じた。

end.
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はい、長い間お付き合いいただき、ありがとうございました(^-^)
一夏の誕生日である3月5日に、『seek』シリーズ#50で完結です。
いろいろアニバーサリーが重なって偶然ながら嬉しいですわ♪
明日は総まとめの後書きアップですので、よければお立ち寄りくださいね。

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