noir #02
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籠の中の鳥は、監視を逃れては生きられない。
生まれながらにして人生を決定付けられていた立夏に、選択の余地というものはなかった。
一般教養から政治、経済、金融、医学、果ては茶道や護身術までありとあらゆる教育、即ち帝王学を叩き込まれ、経営者としての素養を磨き上げられる課程に於いて妥協は存在しない。会得するまで、それこそ日付が変わろうともそんなことなどお構いなしに続くマンツーマンの指導に、発狂しなかったのはひとえに諦めが先に立っていただけだ。
何を問うても答える知識、そして教養の深さ。
何を聞いても返せる記憶、そして機転の早さ。
自分と15は離れているであろう氷室と単純比較するなど意味がないと分かっていたところでなお、どうやっても太刀打ち出来ぬ相手だからこそ、諦めて従うことで僅かばかりの心の安定を得ようとしていたのかも知れない。
毎日毎日、朝から晩まで。
カリキュラムは膨大であり、情報量は無限であった。日々刻々と変動する世界に追い付くには圧倒的に時間が足りない。規定年齢に達しても立夏は義務教育には通わせてもらえず、友達と呼べる存在を持たなかった。
だが籠の鳥は孤独を知らない。心の空洞を埋める術もない。
無限ループの中で、飼い慣らされて大きくなる。
父親の仕事の関係上、大勢の人間が自宅に出入りした。
新薬の開発に、新システムの導入にと金と時間のすべてを注ぎ込み没頭する彼等を眺めながら、その落ち着かない足音に心を乱されて育った。
権力に媚び諂う大人達。
彼らはオフィスであるビルを目指さない。本当の重鎮は相談役ではなく、現取締役であることをよく心得ていた。
父親もまた事業拡大の観点から、そして個人的趣向も相俟って科学分野に異常に強い関心を示す男だった。商品に直結するものだけではなく、御園ラボとして研究所を設け、多くの科学者や開発者を囲い込んで研究に当たらせている。数年先の展開を見越したものの中には公に出来ないものもいくつかあると漏れ聞いた。
いつも大勢に囲まれ采配を振るう父親。背中さえ遠い存在。話し掛けようとする努力はとうの昔になくしていた。
今もまた、慌ただしく帰宅したと思えば客と共に応接間に消えてゆく。その一部始終を階段の手摺に身を凭せ見下ろしていた立夏は、ドアが閉まる瞬間───自分を見上げた紅の瞳に吸い寄せられた。
「………なっ」
やけに冷めた目をした男。
余韻残さず閉じられた扉に立夏は動きを縫い止められる。
「な、んだ……今の……」
彼との出会いが人生の分岐点になるなど、この時は知る由もなく。
運命だけが静かにその緞帳を上げた。
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それぞれ点の関係だったのが、次回から繋がって線になります。
砂を噛むような焦燥感が難しくもあり、楽しくもあり(^-^;) 頑張ります〜。
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noir #03 に続く
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